第5回不動産法人営業×ビジネススクール編

フルタイム×1年間の濃密な学びを経て、経営企画部メンバーに抜擢されました

写真:石垣朝子さん

石垣朝子さん
(不動産会社)

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写真:池上重輔教授

池上重輔教授
(早稲田大学ビジネススクール教授)

  • お客様である企業を助けたいのに、自分にできることが限られている
  • 経営理論の知識ゼロでも努力でいくらでもリカバリーできる
  • 目標への第一歩として、「経営戦略づくり」と「パートナー企業との共創社会の実現」に向けて動き出した

お客様である企業を助けたいのに、自分にできることが限られている

大学院に通う前の仕事は、オフィスビルを企業に継続的に賃借してもらうためのサービスを企画提案する業務でした。単にフロアを借りてもらうだけでなく、入居企業のさまざまな困りごとを解決するお手伝いもするのですが、課題を感じていたのはこの部分。自社の商材であるオフィスビルという固定化したもので解決できることは困りごとの一部分であり、できることに限界を感じていたのです。

また、入居のお手伝いをする中で各企業の経営者の方と直接お話をする機会もあり、ときには経営課題や人事施策上の悩みを聞くこともあるのですが、そういったテーマに対して返せる知見がないことにも悩んでいました。

「私の仕事って何なんだろう」と悩みながらも、何を学べば解決するのかも分からない。そんな状態で悶々としていたとき、会社のMBA派遣制度が新設され、幸運にも学ぶ機会を得ました。

会社派遣なので、早稲田大学であることも、フルタイムの1年制であることも決まっていたのですが、どちらも私にとっては幸運でした。アカデミックなだけでは肌に合わなかったのではないかと思うのですが、早稲田大学には実務家の先生もたくさんいらして、自身がこれまで感じてきた課題も先生方の数多くの引き出しから説明してくださるので、非常に腹落ち感がありました。また、私の性格上、仕事と夜間大学院の「両立」はできそうもないと感じていたので、1年間は大学院での学びに集中できたことは本当にありがたかったです。

写真:石垣朝子さん
石垣朝子さん(早稲田大学ビジネススクール修了)
早稲田大学理工学部にて土木工学を専攻し、野村不動産株式会社へ。オフィス事業部門において、入居企業のビジネス を多角的にサポートする業務に携わる。現在は、経営企画部で経営戦略の立案・M&A戦略を立案中。あらゆる企業と接点をもつ不動産事業者という仕事柄、さまざまな企業・業界の事情に詳しい。

経営理論の知識ゼロでも努力でいくらでもリカバリーできる

入学して驚いたのは、周りの人のレベルの高さ。ベースがほぼゼロの状態で入学した自分に対して、修羅場を多く経験してきた学生やより深い課題意識をもって入学してきた学生の発言は迫力が違うんですね。

といっても1年間で学びきるには、のんびり差を埋めている時間もありません。入学と同時にゼミを選び、正味9カ月で修士論文まで完成させなければならないし、その間に基礎的なこともどんどんインプットしていく必要があります。何の予備知識も得意分野もない中で、前半はとにかく基礎知識を身につけるのに必死。読むべき本も山積みで、テスト、レポート、発表とやるべきことが重なると本当にハードでした。

春から夏にかけては、昼は基礎、夜は応用科目を学ぶのですが、特に応用科目では、他の方の発言内容に圧倒されつつ、人と比較する前にまずは自分の殻を破ってみようと唱えながら授業に臨んでいました。秋ごろになってようやく自分のペースができ、「自分は何が分かっていないのか」がやっと分かってきましたが、その頃になると、新たに学んだ内容から「春に学んだのはこういうことだったのか!」と、逆回転する形で理解できたことも多々ありました。

そんな状況の中、あえて厳しいと評判の池上重輔先生のゼミを選んだ私は「ドM」なんでしょうか?(笑) でも、ゆるやかにやっても何も得られないのではないかと本気で思ったんですね。

そんなわけで、毎日のように夜中や明け方まで課題に取り組んでいましたが、分からないことがあって同級生に深夜SNSでメッセージをすると、すぐに誰かが返事を返してくれるんです。そうやって一緒に頑張る仲間に支えられて、乗り切ることができたと思っています。

特に印象的だったのは、「毎週課題を出されてから48時間以内にレポートを提出する」というルールのあった山田英夫先生の授業です。時間制限がある中で、いかにクオリティが高いレポートを提出できるかという授業です。評価としてはいかに論理的であるか、一貫性があるか、説得力があるのかが見られているのだと思いますが、正解不正解があるものではありません。ですから自分なりに整理をして、自分なりの最高の答えを出すという実務の判断に近いトレーニングを積みます。私も全力投球でその授業に向き合ったわけですが、山田先生から最高評価をもらえたとき、「頑張ればできるし、頑張らなければ評価は低い」という当たり前のことを実感しました。そしてベースは関係ない、いくらでも努力でカバーできるのだと確信しました。

目標への第一歩として、「経営戦略づくり」と「パートナー企業との共創社会の実現」に向けて動き出した

写真:石垣朝子さん

修士論文は「まちづくり」をテーマに執筆。さまざまな企業にヒアリングをして、自社のような不動産会社が地域に対してどのようなリーダーシップを取ることが長期的に見て周辺地域に良い影響を及ぼすのかを研究しました。不動産会社の地域へのインパクトレベルによって、リーダーシップは使い分ける必要があり、不動産会社と住民だけではなく地域外の人も含めてバランスを整えていくことで発展できる……と、話がつい壮大になってしまいがちなのですが、池上先生にサポートしてもらいながら訓練することで、ロジカルに話をつなぐことができるようになりました。

その結果、プレゼン能力が上がったのも大きな成果でした。もともと、できれば大人数の前で話すのは避けたい、一番好きなのは気楽な「3人の打ち合わせ」でしたが、1年間の間でこれだけ発表の機会をもつことで、自信をもって話せるようになりました。

そのおかげもあってか、大学院修了と同時に経営企画部に異動。

現在の仕事の内容はM&Aと出資に関することですが、配属されて気づいたのは、社内では「どうやるか」という手法の議論が多く、結局何が課題なのか、何がしたいのかという視点が欠けがちということでした。「走りながら考える」のが自社の文化ではあるのですが、ともすると「走っているだけ」になりかねないと感じたんですね。解決策を打ちすぎて、結局何がよかったのかの検証もできかねないのではないかと。そこで、ちょうどコロナを機に事業の見直しが迫られる今、会社に提言をして、戦略を再構築すべく動いているところです。

今、顧客に幸せを届けるために業界を超えたパートナー企業とともに共創社会を作りたいと考えています。大学院でさまざまなケースにでてくる企業や仲間の企業を知り、「よい会社とはどういう会社か」という目利きも少しはできるようになったように思います。この経験を自社のみならず、適切なパートナー企業とのネットワークづくりに生かしていけるとよいと思っています。

教員から

壮大な発想を形にする力もリーダーシップも、努力で身につけることができます

写真:池上重輔教授

石垣さんはソムリエの資格を持っていて、私の誕生日に教室にケータリングを呼んで、ゼミのみんなでサプライズパーティーをしてくれました。忙しい中での楽しい思い出ですね。

印象的だったのは、最初の面接で「自分のビル以外の地域もよくしていかないと、本当の価値が作れない」と語っていたこと。いきなり壮大だったわけですが(笑)、実はこれは素晴らしいことで、他人の分野で話を飛躍させることはできても、自分の専門分野でそうするのは案外難しいんです。まずは飛躍できることが大切で、広げた風呂敷をどう畳んでいくかを学ぶのが大学院だと捉えればよいのです。

そう振り返ると、現在の活躍ぶりには目頭が熱くなります。学んでいなければ、会社の皆が当たり前と思っている状態に違和感を持つことはできなかっただろうし、さらにその理由が「戦略が弱い」ことだと見抜き、解決のための提言をしようとリーダーシップを発揮していることも素晴らしい。「マネージャー」でなく「リーダー」を作りたいという、私たち早稲田大学ビジネススクールの理念を体現してくれているようです。

今後の目標は、まさに石垣さんが修士論文で書いたことの具現化。入学時のイメージ、大学院で学んだことのすべてがまとまって形になっていくのを楽しみにしています。


池上重輔さん

早稲田大学ビジネススクール教授。一橋大学にて博士号(経営学)を取得し、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、MARS JAPAN、ソフトバンクECホールディングス、ニッセイ・キャピタルを経て2016年より現職。専門は経営戦略、グローバル経営。