どういう支援があれば、社会人が大学などで学びやすくなるでしょうか。令和4年度の生涯学習に関する世論調査によれば、それに対する最も多い答えが「学費の負担などに対する経済的な支援」(53.7%)でした(内閣府「令和4年度生涯学習に関する世論調査」)。
そこで今回の特集ページでは、「社会人の学びへの経済的支援」として、国の教育訓練給付制度等をご説明し、経済的支援を受けられる講座の事例などを紹介します。
1.社会人の学びの重要性
日本は人生100年時代と言われる世界有数の長寿社会となり、少子化による人口減少も今後さらに進むことが予測されています。また、就職から定年までを同一企業に勤務する終身雇用をキャリアパスとして志向する割合が減少し、企業が求める知識・スキルも多様化する中で、個人のキャリアプラン・ライフプランの状況や社会環境の変化に合わせて、必要な能力を身に付けるための学び直しの重要性が高まっています。さらに、成人学習参加率が高い国ほど労働生産性が高いという実態も指摘されており、人口減少社会では個々のスキルや能力を高めることも生産性を上げるための重要なポイントになるといえます。これらの背景から生涯にわたって学び続けるための教育、学習環境の整備が進められており、特に社会人の学び直しについて年々その重要性が高まっています。
学び直しに収入増の効果も
また、学び直しに収入が増える効果が認められるという注目すべき報告書が2021年1月26日付で内閣府から公表されました。
2020年2月から3月にかけて3万人を対象に調査したこの報告書では、公的職業訓練、OJT、「オフJT」と呼ぶ社外勉強会などでの研さん、自習や留学といった自己啓発、副業の5つに分類し、学び直しをした人と、していない人の収入の変化を14年から19年の間で比較・分析した結果が報告されています。その中では、リカレント教育を(1)公的職業訓練、(2)OJT、(3)Off-JT、(4)自己啓発、(5)主業以外の職務経験等、の5つの分野に分けて、その効果を分析した結果、リカレント教育は、以下について有意に効果ありとの結果が報告されています(なお、大学・専修学校等における学びは(4)自己啓発に含まれます)。
- ☆ (2)(3)(4)(5)は収入増加の効果あり
- ☆ (3)(4)(5)は転職を伴う収入増加の効果あり
- ☆ (3)(4)は、推計対象期間によって、非正社員の正社員化に効果が認められたケースあり
報告書では結論として、Off-JTをはじめとするリカレント教育は収入増加の効果があることから、生産性向上のために促進すべきで、また、転職を伴う収入増加にも効果があることから、成長分野への円滑な労働移動を促す観点からも促進すべき、としています。
学びを求める方々には追い風になるかも知れません。
但し、同時に、過去1年以内にリカレント教育を実施して「いない人」が約87%と、学び直しに取り組む人の割合が低いということも報告されています。
逆にリカレント教育を実施した人から、収入が増えたり、希望の職種につけたりするといことを実感しているのかも知れません。
■内閣府「リカレント教育による人的資本投資に関する分析 ―実態と効果について―」(2021年1月26日)
2.社会人の学びの現状と阻害要因
2020年時点でリカレント教育の正規課程・短期プログラムを受講する社会人は、41万人となっていますが、前述の背景から、文部科学省では、社会人が大学等で学びやすい環境整備を推進しています。
内閣府による「令和4年度生涯学習に関する世論調査」では、学び直しをするために必要な支援として第1位が「学費の負担などに対する経済的支援」(53.7%)、第2位は「仕事や家事・育児・介護などとの両立がしやすい短期のプログラムの充実」40.7%で、経済的負担と時間が学びの阻害要因となっており、キャリアプランやライフプランの中に学びを循環的に組み込むことが困難な状況が窺われます。特に「学費の負担などに対する経済的支援」は過半数が必要な支援として挙げており、この問題が学び直し拡大のボトルネックとなっていると思われます。これに対して、学び直しのための給付金や無料講座の開講等さまざま施策が実施されており、これらを活用することで、経済的負担を抑えながら学び直しをおこなうことが可能となります。
3.社会人の学びのための給付金
<教育訓練給付制度>
働く人の主体的な能力開発の取組み又は中長期的なキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的として厚労省から教育訓練受講費用の一部が支給される制度です。
平成26年10月から制度が拡充され、労働者の主体的な能力開発による雇用の安定・就職の促進を支援する一般教育訓練給付と、中長期的なキャリア形成を支援する専門実践教育訓練給付の2本建てになり、その後、業務独占資格の取得など労働者の速やかな再就職及び早期のキャリア形成を支援する特定一般教育訓練給付が令和元年10月に加わりました。さらに、平成30年1月からは、給付率の引上げや受給要件の緩和など、更なる拡充が行われています。
なお、キャリアアップのために必要かつ有効な教育訓練を選ぶために、専門実践教育訓練給付・特定一般教育訓練給付では、受講前に、必ず、専門の研修を受けた訓練対応キャリアコンサルタントによる訓練前キャリアコンサルティングを受けることになっています。
(1)一般教育訓練給付
一定の条件を満たす方が、厚生労働大臣が指定する講座を受講し、修了した場合、本人が支払った教育訓練経費の20%(上限10万円)をハローワークから支給する制度です。教育訓練が修了してから支給申請を行います。
(2)特定一般教育訓練給付
特定一般教育訓練給付は、速やかな再就職と早期のキャリア形成に資する教育訓練を対象に令和元年10月に新設されました。修了すると、支払った教育訓練経費の40%(上限20万円) に相当する額がハローワークから支給されます。受給するには「訓練前キャリアコンサルティング」の受講が必須ですので、ご注意ください。
(3)専門実践教育訓練給付
文字通り専門的・実践的な訓練が対象で、給付率は一般教育訓練給付より高く、本人が支払った教育訓練経費の50%(訓練期間に応じて年間上限額あり、1年間の訓練期間の場合は上限40万円)を、原則3年以内(最大4年)まで支給が受けられます。受講を修了・資格取得等をして修了から1年以内に就職に結びついた場合は、追加の支給も受けられます。さらに、訓練期間中6か月ごとに支給申請を行うため、教育訓練中から支給を受けられます。なお、受給するには「訓練前キャリアコンサルティング」の受講が必須です。
専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)は初めての受講、受講開始時に45歳未満など一定の要件を満たし、訓練期間中、失業状態にある場合、訓練受講をさらに支援するため「教育訓練支援給付金」が支給されます。
詳しい給付条件等はハローワークインターネットサービスをご参照ください。
4.大学等における社会人向け講座の例
教育訓練給付制度は、一度利用すると、次回の利用は、雇用保険の加入期間(支給要件期間)が再び支給要件期間を満たすまで待たなければなりません。せっかくの教育訓練の機会を生かすために、「マナパス」で講座を比較検討するなどして、よく検討してから決定しましょう。マナパスにも、教育訓練給付制度の対象となっている講座が多数掲載されています。
特に以下のような専門的・実践的な講座として文部科学大臣に認定されている講座については、専門実践教育訓練給付制度の対象となる場合が多いです。
[職業実践力育成プログラム(BP)]
大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の正規の課程と履修証明プログラムで、主に社会人を対象とした実践的・専門的な課程として文部科学大臣が認定するものです。「専門実践教育訓練」又は「特定一般教育訓練」として厚生労働大臣が指定したプログラムを利用する場合、前述の「特定一般教育訓練給付金」「専門実践教育訓練給付金」が支給されます。
[職業実践専門課程認定講座]
職業に必要な実践的かつ専門的な能力を育成することを目的として、専修学校の専門課程で、専攻分野における実務に関する知識、技術及び技能について組織的な教育を行うものを文部科学大臣が認定して奨励することにより、専修学校の専門課程における職業教育の水準の維持向上を図ることを目的とするものです。一定の基準を満たすものは、専門実践教育訓練給付金が支給されます。
[キャリア形成促進プログラム認定講座]
社会人の職業に必要な実践的かつ専門的な能力を育成することを目的として、専修学校の専門課程又は特別の課程で、職業に係る実務に関する知識、技術及び技能について体系的な教育を行うものを文部科学大臣が認定。一定の基準を満たすものは、職業実践力育成プログラムと同様、専門実践教育訓練給付金または特定一般教育訓練給付金が支給されます。
大阪大学
「ナノサイエンス・ナノテクノロジー高度学際教育研究訓練プログラム(社会人教育)」ナノ機能化学コース
プログラムの概要について
実社会でナノ分野に現在従事、または将来従事することを志す企業の研究者、技術者を対象とする大学院レベルの講義と実習を組み合わせた1年間9単位の社会人教育プログラムで、履修生が幅広くナノ分野の最先端高度知識を基礎から学び直し、ナノ科学技術を生かした新しい産業を自ら切り開く知識と挑戦力を身につけることを目的としたコースです。ナノ科学技術の専門講義以外に、科学技術と社会との係りを知る社会受容論、未来社会に役立つシステムを構成する多様な科学技術を効果的に組み合わせる技術デザイン論を学び、討論し、自らケーススタディする土曜集中講座に参加できます。
社会人が受講しやすい工夫
社会人が受講しやすいように夜間(18:00~21:00)に開講し、双方向ライブ配信により全国各地への配信しています。復習・補講のための講義録画のストリーミング配信、週末を含む実習日程となっております。
<修了生の声>
受講生はほぼ全員企業等の在籍者で、H29~R2の4年間に本プログラムを修了した優秀な受講生10名が、企業に勤めながら博士学位取得のための大学院後期課程に社会人入学しています。
専門学校 日産横浜自動車大学校
自動車整備科コース
プログラムの概要について
自動車整備に関する専門技術及び理論を教育し、整備技術の進歩発展を通じて、社会に貢献できる人間性豊かな整備士を育成することを目的としています。国家二級自動車整備士資格を取得できる知識と実践力を身に付け、整備士として基本的な自動車整備作業ができる人を育てるカリキュラムとなっており、卒業時には国家二級自動車整備士資格を取得できる知識と実践力が身に付き、整備士として基本的な自動車整備作業ができるようになります。また、日産横浜自動車大学校の自動車整備科は、厚生労働省指定の専門実践教育訓練講座に認定されています。社会人の方はこの給付金制度を活用して、自動車整備士を目指すことができます。
(※注意事項:2021年4月入学の場合は、2021年2月末までにハローワークへの申請が必要です。又、給付金支給にはその他にも条件がありますのでご相談ください。)
<在校生の声>
一般企業の営業マンとして働いていましたが、前からの希望だった自動車整備士になるという思いが強くなりリスタートを目指しました。周りの学生ともすぐに距離が縮まり、休みの日に一緒に出かけたりもしています! あらかじめ学費を用意していたので、給付金を生活費に充てており大変助かっています。妻もパートで家計を支えてくれます。この給付金は1月からさらに制度が拡充されたので、多くの方に知って頂きたいです【自動車整備科1年生】
中国デザイン専門学校
造形専門課程 社会人速成科
プログラムの概要について
実践ですぐ役に立つ技術を短期間でマスターできる学科です。本校の3年制学科のカリキュラムの中から希望に沿って、学びたい科目、身につけたい技術を選択します(必修科目有)。講師と相談の上、プログラムを個別に設定し、1年の短期間で、効率的な学習が可能となっています。
本学科は、実践力養成を第一としているので、1年の短期間で、効率的な習得が可能です。カリキュラムから希望に添って、学びたい科目、身につけたい技術を選択(必修科目有)します。講師と相談の上、1年のプログラムを個別に設定。在学期間中は専門学校生として扱われ「学生証発行」や「奨学金貸与申請(条件有)」が可能になり、学生割引、奨学金制度など学びのサポートを受けることが可能です。
また、社会人速成科卒業時は「専門学校卒業資格」を取得します。1年課程を修了した後、デザインの腕を磨きたいという人のために、希望に応じて中国デザイン専門学校の専門課程(3・4年制)へ編入学を希望する場合は、内部推薦入試および学納金一部給付等の優遇もあります。教育訓練給付金を受け取れる、専門実践教育訓練講座(厚生労働大臣指定)でもあります。
<修了生の声>
入学してすぐMacに触れられ、短期間で実践的な技術を身につけられました。社会人を経験した後、学校で3年学ぶのは大変ですが、社会人速成科ではたった1年で基礎から実践、応用、卒業制作、就職までつなげてくれます。自分より年下のクリエイターからも刺激がもらえるので、充実した時間が過ごせますよ。(2017年卒・広告業界でグラフィックデザイナーとして勤務)
5.奨学金制度
<日本学生支援機構(JASSO)>
奨学金は、経済的理由により修学に困難がある優れた学生等に対し、教育の機会均等及び人材育成の観点から経済的支援を行うものです。
日本学生支援機構(JASSO)により運用されている奨学金制度は、大学・短期大学・大学院・高等専門学校・専修学校(専門課程)・通信教育課程に進学後応募可能な、国が実施する貸与型の奨学金となっており、経済的理由により修学が困難で、かつ優秀な学生であると認められるなどの一定の要件を満たす学生本人に貸与されるものです。
貸与型奨学金は、卒業後に返還する必要があり、利息が付かない「第一種奨学金」と、利息が付く「第二種奨学金」の二つがあります(※)。
(※)奨学金の額は、奨学金や学校の種類ごとなどで異なります。
貸与奨学金の審査においては年齢上限を設けていないため、社会人の学び直しにおける経済的支援として活用が可能です。ただし、学力基準や家計基準があるため、申込資格等の詳細な利用条件は日本学生支援機構のウェブサイトをご参照ください。
また、過去に奨学金の貸与を受けた人でも所定の要件を満たす場合は、再び奨学金の貸与を受けることのできる制度(再貸与)や、大学院で第一種奨学金を借りた学生を対象にした返還免除制度(特に優れた業績による返還免除)があります。
■日本学生支援機構「奨学金の貸与をもう一度受けたい皆さんへ」
さらに、ポストコロナ社会におけるグローバルレベルでの人材獲得競争を見据えた高度人材育成が推進される中、留学生派遣の強化も進められており、留学前に必要な手続きや留学先の国・地域の特徴など、海外留学の準備に役立つ情報の他、活用できる奨学金の情報が一覧できるウェブサイトが開設されました。日本学生支援機構が提供する奨学金の他、外国政府や地方公共団体、民間企業等が提供する奨学金情報も検索可能です。
■日本学生支援機構「海外留学情報サイト」(留学のための奨学金)
<大学、地方公共団体等が行う奨学金制度>
そのほか、日本学生支援機構以外にも、大学や地方公共団体等が行う奨学金制度などもございます。下記リンクで、国内の大学、短期大学が行う学内奨学金、授業料等の減免・徴収猶予制度及び地方公共団体等(都道府県・市区町村・その他、奨学金事業実施団体等)が行う国内向け奨学金制度の情報を検索できます。
6. 教育ローン
金融機関が個人を対象に行う教育ローンは、一般的には学生の保護者が教育関係経費を工面するために活用されるイメージが強いですが、学び直しを希望する社会人も学生本人として融資を申し込むことは可能です。日本政策金融公庫が実施する公的な融資制度である「国の教育ローン」のほか、民間の金融機関等による教育ローンも様々な商品が提供されていますので、金利や返済期間、借入可能額など、条件を比較検討した上で利用することが重要です。
「国の教育ローン」は中学校卒業以上の方を対象とする教育機関への進学等に利用可能ですが、令和5年度より融資対象となる教育機関に必要な修業年限が6か月から3か月に短縮され、大学等での短期講座の受講(※)や資格取得のための学校へ通う場合などで活用しやすくなりました。申込みの条件や必要書類等については、日本政策金融公庫のウェブサイトからお問い合わせください。
(※)研究生・聴講生として通学する場合などは対象となりません。