特集インタビュー

学習歴を可視化して共有
オープンバッジは「学び」を活性化し人材育成・リスキリングを推進します
INTERVIEW 株式会社ネットラーニング 岸田 努 社長

人材育成やリカレント教育において、急速に活用が進んでいるデジタル証明「オープンバッジ」。知識・スキル・資格を可視化することで様々な可能性が期待されます。株式会社ネットラーニングの岸田努社長に「オープンバッジ」の価値や未来についてお話を伺いました。

企業の人材育成プログラム、大学でもオープンバッジを活用

オープンバッジの導入、学習歴の可視化にはどんなメリットがありますか?

オープンバッジの受領者は、学びの成果が可視化され、学習歴を「見る」「持つ」ことができるので、達成感や充実感が得ることができ、仕事や次の目標に向けて学習を続けるモチベーションが高まります。オープンバッジは一定の技術標準規格によるデジタル証明で、改ざん防止のブロックチェーンを搭載しているので「オープン」という名の通り、PCやタブレット端末、スマホの標準的なブラウザを使って公開・共有することができます。様々なソーシャルプラットフォームで自分がどんなスキルを持っているのか、学習歴を簡単にアピールすることができるので、スキルに基づく採用にも役立ちます。

オープンバッジとは オープンバッジ=世界的な技術標準規格にそって発行しているデジタル証明/認証

発行者の大きなメリットは、効率的な人材育成ができることです。従来の社内研修は、ほとんどが階層別研修や新人研修などの割り当て型でしたが、人材の流動に伴い、雇用形態もメンバーシップ型からジョブ型にシフトしており、企業には、様々なコンテンツを多く用意して、社員が自分に必要なスキルを自分で学べるようなプログラムを設計することが求められています。

そうした学び・スキルを証明できるのがオープンバッジ。例えば、旭化成は、全社員4万人のデジタル人材化を目指して育成プログラムを設計し、2021年から5段階のレベルでオープンバッジ制度の運用をスタートしています。あくまで自己研さん型プログラムで強制ではありませんが、バッジを獲得した社員が、LinkedInやメールのフッター、名刺などにバッジをつけてアピールするようになったことで、誰がどんなスキルを持っているかが分かりやすく、非常に多くの社員がバッジ取得を目指してプログラムに参加しています。

また、IBMではバッジの導入で、プログラムの受講申込数、コース修了率、試験の合格者数、合格率が上がり、バッジ取得者の学習意欲の向上、学習時間の増加にも一定の効果・成果を得ています。オープンバッジは、社員のスキルアップ、学びの意識改革を効率・効果的に進め、社員の能力・価値を引き出す波及効果の高いツールなのです。

教育機関、大学などの学びにはどのように運用されているのでしょうか。

国内では、現在約80の大学がオープンバッジを発行しており、学位とは別に学習歴・学習成果にフォーカスしてバッジを発行するケースが増えています。データサイエンスやAI、数理関連のバッジをはじめ、異文化コミュニケーションやSDGsプログラム、通訳翻訳など、今後もあらゆる分野でバッジの発行が増え、学生の学習プランやキャリア設計に有効活用されるでしょう。大学と企業の産学連携も重要です。P-TECH(※)のように、行政と学校と企業で実践的なカリキュラムを組み、企業が求めるスキルと大学が提供するプログラムをリンクさせることで、採用プロセスでもバッジが活用できます。

また、大学が企業の育成プログラムを設計する可能性もあります。スターバックスは、アリゾナ州立大学と人材育成プログラムを共同開発していて、コーヒー学や、人権、エコ、ビジネスマネジメントなど、誰でも受講できる幅広い講座を提供し、それぞれにバッジを発行することで、学びの促進に取り組んでいます。

※P-TECH:2011 年にアメリカで始まった教育行政・学校・企業が協働してIT人材育成に取り組む公教育学校モデル。日本では、東京都・神奈川県・茨城県の公立学校でP-TECHプログラムを展開し、地域で活躍できるIT人材の育成を目指す。

オープンバッジをメールのフッターに添付した例。学習歴やスキルをわかりやすく示すだけでなく、オープンバッジをきっかけにした交流が生まれることも。

オープンバッジの共有で
マッチングやステップアップのチャンスが広がる

獲得したオープンバッジは、どんなことに利用できますか?

企業内の人材育成プログラムで獲得したバッジであっても、転職などには大いに役立ちます。 例えば、旭化成のデジタル人材育成プログラムは全体設計やバッジの内容が公開されているので、バッジホルダーがどのようなスキルを持っているのか外部の人にも分かりますし、内部研修であっても職歴を重ねA社、B社、C社のバッジを獲得していたら「相当スキルが高い」と評価されます。

今、海外では、Googleの資格認定者ディレクトリ(オンライン名簿)の登録者が劇的に増加しています。Googleが提供する認定資格を取得してこのディレクトリで共有することで、採用者の目にとまりやすく、世界中に自分のスキルをアピールすることができるからです。世界有数のIT 企業であるGoogleの認定資格で、そのスキルをオープンバッジが証明しているので信頼性が高く、オープンバッジホルダーと企業のマッチング、人材発掘・採用に役立っています。ホルダーは、オープンバッジを共有することでチャンスが広がり、キャリアのステップアップにも利用できるのです。世界中で発行されたオープンバッジを、自分専用のアカウント「ウォレット」で一元管理することで、バッジの管理もしやすく、SNSで手軽にシェアできるので、国内、職場内にとどまらず人脈を広げ、同じバッジを持つ人とつながり、交流し学びを深めることができます。

学びが必要な時代に、学び続け成長し続けるためのデジタルツール

社会人の学びとオープンバッジの未来をどのように考えますか?

オープンバッジは、「DXの推進」という攻めのリスキリングと、「個人の学び」に集約される守りのリスキリングの両方を後押しするツールとして幅広く活用されるようになるでしょう。就職やコミュニケーションなど様々な場面で有効なツールではありますが、本質はそれを通してしてしっかり学ぶこと。私もそうですが、ある程度経験値を重ねてきた40 代・50 代は、学びが止まり、調整力で何とかしようと考えがちです。メンバーシップ型雇用が主流でジョブローテーションがある就業環境では、調整力は必要不可欠でしたが、時代は大きく変わり、スキル重視の世の中にシフトしています。

オープンバッジは、企業や大学、自治体、省庁など広範囲にわたって連携活用されることで、「世界共通の学びの貨幣」として、世界中でその価値を発揮します。バッジを管理するウォレットを見れば自分の貯金(学びやスキル)がどれだけあるか「見る」ことができるので、成長につながる学びを生涯続けていくモチベーションになると期待しています。

本日はありがとうございました。

岸田 努氏(きしだ つとむ)/株式会社ネットラーニング 代表取締役社長
情報サービス業で国内大手企業やグローバル企業に情報システムを数多く導入。
その後ネットラーニングへ入社。eラーニング導入初期に、大手企業において多くの研修成功事例を生んだ。
一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会、 NPO 法人デジタルラーニング・コンソーシアム、一般財団法人オープンバッジ・ネットワークの理事。

※マナパスでは、マイページで学習歴の登録のため、お持ちのオープンバッジのURL貼付・画像表示が可能です。また、令和6年度には「マイジョブ・カード」とも連携予定です。
ぜひご自身の就職・転職活動等にご活用ください!