第1回医薬品マーケティング×ビジネススクール編

「大学院で得た『自ら学ぶ力』が、どこでも働ける自信と自由をくれました」

写真:寺田幸司さん

寺田幸司さん
(製薬会社勤務)

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写真:小山龍介准教授

小山龍介准教授
(名古屋商科大学大学院)

  • マーケティング部への異動をきっかけに「会社の仕組み」を知ろうと大学院へ
  • 期限を決めて取り組むから、普段の業務で手が回らない課題に挑める
  • 最大の収穫は、会社に縛られない「ポータブルスキル」が身についたこと

マーケティング部への異動をきっかけに「会社の仕組み」を知ろうと大学院へ

34歳のとき、勤務している製薬会社で営業からマーケティングに異動になり、今までの経験では的を射たアウトプットができないと痛感することになったんです。それまでの仕事は、病院に行き、医師に自社製品の情報を提供して薬を使ってもらう、いわゆるMR職であり、自分の売上を伸ばせば評価してもらうことができました。しかしマーケティングは本社の仕事であり、自分の知識の範囲では狭すぎて全体最適ができない。会社がどういう仕組みになっているかということは、いち営業職の経験だけでは想像がつかなかったのです。

そんなふうに悩んでいたとき、「ビジネススクールに行くのも一つの方法だよ」とアドバイスしてくれたのが、名古屋商科大学大学院で学んだ同じチームの先輩だったのです。名古屋商科大学は数あるMBA課程の中でもとりわけ厳しいという噂も聞きましたが、実際に学んだ先輩が身近にいたことと、「どうせお金と時間をかけるなら、ちゃんと力がつくことをやりたい」という思いからここを選びました。土日だけで学べることも僕にとっては大きなメリットでしたね。急に「明日までにこの資料を出してくれ」と頼まれて退社が遅くなることも多く、時間の読めない仕事なので、いくら夜間といっても平日の授業では苦労したと思います。

写真:寺田幸司さん
寺田幸司さん(製薬会社勤務)
大手製薬企業勤務。入社以来営業で経験を積んできたが、マーケティング部署への異動をきっかけに学びの必要性を感じ、異動から半年後の2016年9月に名古屋商科大学大学院に入学。修了後も引き続きマーケティング部署で製品の販売戦略立案を手掛けている。

期限を決めて取り組むから、普段の業務で手が回らない課題に挑める

勉強は噂通り、大変でした!成績は発言と課題レポートの両方で評価され、クラスの約3割は単位認定されないんです。実際、僕も落とした単位があります。

授業前に読む課題図書も多いから、集中して早く読む必要があります。課題レポートの提出は厳守です。でも、そうした制約があるからこそ、学ぶ力が上がるんですよね。

印象的だったのはやはり、ゼミで取り組んだ「ケースライティング」です。名古屋商科大学ビジネススクールでは、修士論文のかわりに特定課題研究として「ビジネス・ケース」の作成が修了要件となっています。多くの人が、実際に自分が抱えている業務をビジネス・ケースにまとめます。僕自身も、自分がマーケティングの経験の中で抱えていた課題、具体的には、自分が立てた戦略がうまくワークしない領域について、戦略が間違っているのか、セールスの過程に問題があるのか等を検討しました。

ケースとしてまとめるために自分の業務を振り返ることで、深く見つめ直すことができ、書いている途中にゼミでレビューが入り、問題がありそうなところについては「ここでもう一つ調査をしておいたほうがよいのでは?」といった意見をもらうこともできます。そうしたレビューに対し、自分も、「ではいついつまでにやります」と期限を約束して進めていくのですが、この期限を約束するというのがまたいいんですね。こうした調査は、普段の業務の中では「いつかやったほうがいい」と思いながらも、つい目の前の急ぎの案件に追われ、なかなか着手できないもの。期限を決めて、実施すると約束するからこそ、普段手が回らない部分までやりとげることができたのだと思います。

指導教授とのやり取りもですが、ゼミ生同士のディスカッションも貴重な体験でした。メーカーの経理、ソフトウェア会社の事業戦略担当者、ベンチャー起業家、団体職員……ゼミ仲間だけでもこれだけ多様なバックグラウンドの仲間がいて、中には個人商店をMBAホルダーとして支援することをテーマにしたケースを書いた人もいます。自分の今の仕事とは全くサイズ感の違う題材で刺激を受けましたが、将来、新規事業を立ち上げることになるなどすればきっと役立つ経験だと思っています。

最大の収穫は、会社に縛られない「ポータブルスキル」が身についたこと

写真:寺田幸司さん

学んで役に立ったことはたくさんあります。たとえば、マーケティングの仕事では、自分たちが考えた戦略について経営層に説明する必要がありますが、そのプレゼンテーションには、ロジカルシンキングのフレームワークがダイレクトに役立ちました。また、どのような順序で戦略を立てるべきか、という問いへの答えは、「ビジネスモデルキャンバス」を書いていくと自然と見えてきます。

ただ、今の業務に直結するメリット以上に強く感じるのが、「ポータブルスキル」が身についたという感覚です。これは「考える型」ともいうべきもので、今の仕事に限らず応用できる力だと思っています。

自分の業務そのものは、毎日取り組んでいればある程度できるようにはなるものです。ただ、自分のスキルを世の中の流れに合わせてアップデートすることまではなかなかできません。大学院で身につけたラーニング・アジリティ、つまり素早く学ぶ力や、学びを習慣化できる能力が、それを可能にしてくれました。

その結果、「会社に使われる」のではなく、「自分の豊かさのために会社を使う」という考え方ができるようになり、「使われている」立場の怖さがなくなりました。今は「会社の中でどう振る舞うべきか」ではなく、「何のために仕事をしているのか」を、自信を持って考えることができます。これは「やりたいことを実現できる場所ならこの会社でなくてもよい」いう気持ちにつながり、精神的に自由になれるんですね。そして、そう思える人間こそ会社に必要とされるのだということも、今は実感しています。

「必要に迫られて変わる」のではなく、必要になりそうだと感じたら先んじて変わっていくこともできるようになりました。最近の製薬業界は、英語、専門性、デジタル知識など求められることが非常に多様化し、さらにそれを使いこなすスキルが求められています。そうした変化の必要性に自分から気づき、先取りして学ぶことができるのは大きな強みです。この10月、よりグローバルな部署に異動になりましたが、そうなることを見越してすでに勉強を始めていたので、不安に思うことはありません。

そういえば、異動の送別会で、「アドバイス、ファシリテートの能力が高い」というメッセージをもらったのはとても嬉しかったですね。まさに大学院で学んだからこそ得られた力で、そういう能力を求められるマネージャークラスの人には、僕からも是非、ビジネススクールで学ぶことをおすすめしたいと思います。

教員から

自らを客観視することで悩みが解消するから、悩んでいる人にこそおすすめです

写真:小山龍介准教授

修士論文に相当する特定課題研究としての「ケースライティング」は、たいていは学生自身の業務上の悩みです。ビジネス・ケースを作成していくうちに、自分の仕事を客観的な視点で眺められるようになり、ものごとを大きく見すぎていたり、目の前のことにとらわれすぎていたことに気づき、悩みが解消するんですね。実はこうした客観視は、研究者が必ず通るプロセスであり、「修士」らしいアクションともいえます。悩みが解消するのでメンタル面でも健康的ですが、日々の仕事の中ではなかなかできない。ですから、仕事で悩んでいる人ほどビジネススクールで学ぶほうがよいと私は思っています。

本学では、卒業後にもゼミに参加することができます。寺田さんも、多いときは月に一度は顔を出し、後輩にアドバイスをしてくれています。横だけでなく縦のつながりが生まれ、普段の仕事では難しい異業界とのコミュニケーションが続けられるのもここならでは。卒業しておしまいではなく、ぜひこの場を活かし続けていただきたいですね。


小山龍介さん

名古屋商科大学ビジネススクール准教授。大手広告代理店勤務ののちサンダーバード国際経営大学院でMBAを取得し、株式会社ブルームコンセプトを設立。『IDEA HACKS!』などの著書のほか、ライフハックに基づく講演・セミナー・企業研修も多数。専門分野はビジネスモデル、 イノベーション、 コンセプトクリエート。