特集:地方創生と社会人の学び

自らの経験を活かして地方創生に関わりたい熱意ある社会人や、地方創生に関心はあるものの、何から手を付けたらよいか分からない社会人の方に向けて、マナパスでの地方創生をテーマにした社会人向け講座について特集します。

1.「地方創生」とは

2021年1月現在、日本の総人口は約1億2557万人と言われています(総務省「人口推計(令和3年1月1日現在)」)。80年後の2100年には、およそ6割の7500万人ほどに減少するといった予測もあり(*1)人口減少の傾向は続いています。これには、地方に比べてより低い出生率にとどまっている東京圏に若い世代が集中することによって、日本全体としての人口減少に結びついているとの指摘があり、東京圏への人口の過度の集中を是正することが、少子化問題解決にとっての大きな課題となっています。
(*1) 「日本の人口、2100年に7500万人 減少見通し加速」朝日新聞デジタル 2019年6月18日付

こうした中、地方に雇用を創出して、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持することを目指す、いわゆる「地方創生」への取り組みが進められています。

特に、2020年の新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、密集を避けるためのテレワークの普及等もあり、企業による本社機能の地方移転や、就業者の地方移住などの動きが見られます。今後、「地方創生」への関心はますます高まってくるといえそうです。

2.求められる人材

「地方創生」を進めるには、向けた様々な枠組みづくりや取組は、地域の戦略を策定し、戦略を統合・管理する人材、 個別事業の経営に当たる人材、第一線で中核的に活躍する人材など、様々なタイプの人材(地方創生人材)が確保され、活躍することではじめて実現します。しかし、地方公共団体や各種事業体においては、必ずしも、そのような人材が確保できていないという状況にあります。

こうした状況に対して文部科学省や大学、内閣府で行っている取り組みの一部をご紹介します。

3.文部科学省■大学による地方創生人材教育プログラム構築事業

地方創生に向けては、当該地域にある高等教育機関が核となって、その地域の経済圏における教育と職業、教育と新たな産業を結びつけていく活動が不可欠という観点から、地域の大学、自治体、産業界等が連携した体制において検討・構築された出口一体型人材養成プログラムを推進しています。
 具体的には、大学が近隣の別の大学や地方自治体、地元企業などと連携し、地域が求める人材育成に向けて教育プログラムを実行するもので、若者の地元定着と地域活性化も同時に目指す事業です。(文部科学省公開資料より作成)

図1
大学による地方創生人材教育プログラム構築事業

令和2年度の採択は4事業で、それぞれ責任大学は信州大学、徳島大学、山梨県立大学、岡山県立大学。このうち信州大学は事業名を「地域基幹産業を再定義・創新する人材創出プログラム」とし、富山大学、金沢大学、長野県、富山県、石川県、株式会社リンクアンドモチベーション、合同会社RBX、信州100年企業創出PRJTコンソーシアム、北陸経済連合会などが参加しています。それぞれが持つ強みや長野県、富山県、石川県、の各県の産業の特徴を組み合わせてカリキュラムを設計し、オンラインによる相互受講、広域的な就活イベントなどで連携を図ります。地域企業の協力も得て、県域を越えて学生のインターンシップ実施し、企業や地域の課題解決に取り組むなどにより、学生や社会人の地元定着の向上を通じて地域活性化を目指します。

4.大学における具体例

2020年でのマナパスのアクセスランキング上位にも地方創生をテーマとする講座が多くランクインしており、利用者の関心の高さが伺えます。

マナパスに登録されている講座のうち、大学における地方創生に関する学びの事例をご紹介いたします。

金沢大学
能登里山里海SDGsマイスタープログラム

プログラムの概要について

世界農業遺産「能登の里山里海」には、長い歴史の中で人びとと自然の間で培われてきた智恵と経験があります。しかし、過疎高齢化が急速に進む現在、里山里海の環境と文化は失われつつあり、こうした智恵と経験を次世代につなげることは喫緊の課題となっています。
能登里山里海SDGsマイスタープログラムは、「能登の里山里海」を起点に、志を持って集まった多様な人々の間で相互の学び合いを通じて、(1)地域の課題を客観的に分析し、(2)新たな視点から価値を発見し、(3)試行・実践を通じたプランの具体化への支援に取り組んでいます。
マイスタープログラムは金沢大学の地域連携および教育研究の拠点施設である「能登学舎」を拠点に、2007年10月、社会人向け高度人材育成プログラムとして開講しました。文部科学省職業実践力育成プログラム(BP)認定事業です。里山里海の豊かな資源を生かし、能登の抱える地域課題に取り組む人材や、自然と共生する持続可能な地域社会モデルを世界に発信する人材など、能登の活性化を担う若手人材を輩出してきました。これまでに196名が講座を修了し※(2020年3月時点)、学んだ知識を農林漁業や特産品を使った新商品の開発などに生かしています。

※2007年から現在まで開講している講座、「能登里山マイスター」(2007~2011年)、「能登里山里海マイスター」(2012~2018年)、「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」(2019年~)すべての修了生を示します。

地方創生への貢献事例

講座の受講生は、里山里海の価値を活かした能登ならではのSDGsモデルづくり、地域の人たちと連携しながら地域の課題解決、生業活動の実践、調査・探究活動、アイデアの提案などに取り組んでいます。卒業研究のテーマは、例えば「サイクリングによる着地型観光の推進」、「「森のようちえん」の実施可能性」、「「能登ふぐ」の地域ブランド化」、「関係人口づくりをとおした祭りの継承」、「能登の森林保全のための木材活用プラン」など、地域振興プラン、新規就農・起業、地域資源、観光・交流、地域文化、教育、農業振興・経営、工芸・アート、林業、福祉・健康、環境、水産業と多岐にわたります。受講生が自分の提案を元に取り組んだ研究は、修了後、地域の特色を生かしたユニークな生業や活動として、それぞれ実践されています。

社会人が受講しやすい工夫

受講生のために専用のwebサイトを開設し、講義のアーカイブスを作成しています。講義動画の視聴や、資料を閲覧することができます。授業を欠席しても、いつでも復習することが可能です。また、2020年は新型コロナウィルス感染症流行対策のため、対面だけではなく、オンライン参加ができるように受講環境を整えました。会議用webシステムを使い、これまでのマイスタープログラムでも重要としてきた、講師も含めた参加者が互いに活発に意見を交わせるディスカッションの場を、オンラインでも可能になるよう、試行錯誤してつくっています。
 また、キッズサポートとして、能登学舎には講義中にお子様が待機できる部屋、休憩を取れる部屋があります。
 あと、受講生が参加できるユニークな地元の金融機関(興能信用金庫)との連携講座「能登里山里海創業塾」(以下、創業塾)をご紹介します。希望者は、マイスタープログラムの講義修了後に開催する創業塾に参加して、自分の事業計画づくりとその改善、資金調達に向けた専門家のアドバイスを受けることができます。創業塾は、輪島市、珠洲市、穴水町、能登町での「特定創業支援事業」として認定されており、一定の要件を満たした方は、該当する市町で証明書の申請が可能です。特定創業支援とは、特定創業支援事業による支援を受けた人が、創業に関するさまざまなメリットを受けられる支援制度です。

<修了生の声>

「私は受講をきっかけに東京から移住しました。このプログラムを通じて地域の人々や他の受講生との多くの出会いがありました。また、少人数で里山の専門家から幅広い知識を得ることもできます。田舎に暮らしながらこのようなチャンスを得られるのは、このプログラムの大きな魅力だと思います。」

「マイスター受講をきっかけに地元農業青年らと一緒に会社を作って農業を始めました。卒業課題では、自分が生まれ育った棚田に囲まれた集落での生活を続けるためにできることについてまとめました。現在は、能登の他の棚田地域と連携して、米のブランド化や消費者との交流事業に発展しています。」

「卒業課題では、お米の品質についての試験を行いました。大学の研究室を使わせて頂き、教授に直接ご指導いただきました。このような経験を行なえることは普通ないと思うので、何か目的を持ち、それについて科学的なアプローチを行いたいと思っている方には、またとない機会になると思います。」

「能登地域の自然資源を生かした事業を考えていた折、珠洲市役所に相談したところ本プログラムを紹介いただきました。里山里海の資源について深く知ると共に、SDGs活動を見据えて学べるプログラムに大変強い関心を持ち受講しました。事業化に向けた準備段階を、能登里山里海SDGsマイスターを受講することで、包括的な知識の提供、豊富な人的ネットワークを活用でき、材料調達が短期間で進めることができました。東京在住でありながら能登地区での活動を支援いただけたことに感謝しています。」

PRポイント

能登学舎は、廃校になった旧小泊小学校の校舎です。窓からは、能登の里海を一望することができます。能登学舎には、マイスタープログラムを実施する金沢大学の他に、NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海、能登SDGsラボ、珠洲市自然共生室があり、里山里海をキーワードに活動する団体が集まるコワーキングスペースのようになっており、マイスタープログラムの受講生・修了生をはじめ、地域の方たち、国内外の研究者、県内外の訪問者でにぎわう、交流の場となっています。

また、受講を通じて得た知識、経験、人脈を活かし、持続可能な里山里海の構築をめざしたマイスター同窓会「能登里山里海マイスターネットワーク」があります。修了生や地域の方との連携づくり、情報交換やディスカッション、地域の若者との交流の場となることを目的としています。各自の活動の発展と能登の活性化、地域に根付いた活動の展開、多様な連携に基づく新たな取り組みをサポートします。これらの活動を礎に、2020年5月、マイスターネットワークはNPO法人となりました。受講生・修了生同士の交流がさらに活発になるよう、今後も活動をサポートしていきたいと考えています。

東北学院大学
コミュニティソーシャルワーカー(CSW)スキルアッププログラム

プログラムの概要について

東北学院大学では、まちづくり・地域福祉のキーパーソンとして活躍し得る人材を養成するため、「コミュニティソーシャルワーカー(CSW)スキルアッププログラム」を2016年度より開講しています。複雑化、多様化を続ける昨今の地域課題を解決するためには、住民の参加が必要不可欠であり、その地域におけるコミュニティが大切な役割を果たします。この重要な場面で、地域コミュニティの調整役として期待をされているのが、コミュニティソーシャルワーカーです。

知識と実践力を兼ね備え、時代・社会の要請に応えられるコミュニティソーシャルワーカーを養成するという理念を実現するため、地域福祉の第一線で活躍する実務家教員はもちろん、多彩な分野の専門家を講師に招き、大学ならではの学際性に富んだカリキュラムを提供しています。また、外部委員(学外者)も含んだ運営体制の設置や、受講生アンケートを毎年度実施することにより、絶えずカリキュラムの効果検証や改善を図っています。時代の変化に応じた、学修者本位のプログラム運営を行っています。

社会人が受講しやすい工夫
  • CSWスキルアッププログラムでは、以下の通り、社会人の方々が受講しやすく、また無理なく受講を続けやすい環境を整備しています。
    【開講日】土曜日(ひと月あたり1~3回開講)
    【欠席時のフォロー】毎回の授業を収録し、やむを得ず授業を欠席した方に提供するとともに、2016年度開講以来の授業データのアーカイブ化を図っています。
    【受講費用】CSWスキルアッププログラムは厚生労働省より、教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)の講座指定を受けております。一定の条件を満たすことにより、受講費用の一部が支給されます。
<修了生の声>

実際に授業が始まってみると、仕事の現場で漠然と感じていた「こういうことが必要なのではないか」「もっとこういう取り組みができたらいいのに」という疑問や葛藤に対するヒントや答えを得ることができました。毎回の授業で、頭も心もいっぱいになるほどの気づきや発見を持ち帰ることができたと思います。授業の度に心を熱くし、持ち帰っては現場で葛藤し、の繰り返しでしたが、諦めず、心萎えずに前に進めたのは、他では学ぶことのできない充実したカリキュラムに対する期待と、「絶対に持ち帰って現場に伝えたい、何とか支援の現場を良くしたい」という思いが心を奮い立たせてくれたからだと感じます。それが、1年間学習を続けるための最大のモチベーションになり、結果的に成長の糧になったと考えています。(2016年度修了生)

基礎科目は最近の動向や政策も踏まえ、今の社会情勢に合った講義になっており、さらに地域福祉活動の策定方法までプログラムに入っているので、そのまま実務に活かせる内容でした。また協働する際のさまざまな技法や、活動者の方から直接、支援活動について学ぶことができ、即活用できるプログラムだと感じました。受講生もさまざまな職種の方がおり、それぞれの得意不得意分野を補うように情報交換ができ、どのような人でも参加できるプログラムだと思います。(2018年度修了生)

5.内閣府 地方創生推進事務局■地方創生カレッジ

「地方創生カレッジ」 は、地方創生の本格的な事業展開に必要な人材を育成・確保するため、実践的な知識をeラーニング講座で提供するほか、必要に応じて実地研修も効果的に取り入れることで知識やスキルを習得できるようにする取組です。
 eラーニング講座177講座を擁し、約2万人の受講生が学びます。eラーニング講座で身につけた知識やスキルは、「地方創生 連携・交流ひろば」の掲示板を活用することで理解が深まります。さらに、実践事例や参加レポートから地方創生のヒントを見つけることができます。

図2
地方創生カレッジ

6.学びを地方創生に活かす - 地方創生人材支援制度

政府では、地方創生を人材面から支援するため、地方創生に積極的に取り組む市町村に対し、意欲と能力のある国家公務員及び大学研究者、民間専門人材を、市町村長の補佐役として派遣しています。平成27年度から始まり、令和2年度までに244市町村への派遣が行われています。

民間専門人材については協力企業を通じて市町村(指定都市除く)に対して、原則半年以上2年以下の期間で、①課長、部長、副市町村長等、地方創生を担当する幹部職員(常勤特別職・一般職)または②顧問や参与等、地方創生に関するアドバイザー(非常勤特別職、委嘱等)として派遣されます。

派遣される人材が備えることが望ましい要件として、地方創生の取組に強い意欲をもっていることや市町村まち・ひと・しごと創生総合戦略の策定・実行のために十分な能力を有することが挙げられています。またデジタル分野においては、情報通信技術を始めとする未来技術を活用した事業又はサービスの企画、研究、販売又は運用などの業務経験と知識を有することが望ましいとされています。

■まち・ひと・しごと創生本部「地方創生人材支援制度」

令和3年度の派遣概要の公表は9月の予定です。派遣人材の地方創生に関する経験や知識、Society5.0に関する学びを、具体的に地方創生に活かす一つの方法として、企業を通じて制度への参加を検討されてみてはいかがでしょうか。