特集:リカレント教育で大学と企業が意見交換

2021年11月8日、一般社団法人大学コンソーシアムひょうご神戸の主催と丸善雄松堂株式会社の協力によるオンラインイベント「大学コンソーシアムひょうご神戸『リカレントフォーラム2021』」が開催されました。

文部科学省と兵庫県にある3つの大学、3つの企業が登壇し、行政が推進するリカレント教育事業の報告に、大学によるリカレント教育の取組実例、企業が求める人材育成のニーズなどについてディスカッションを行いました。

IT技術の発達、平均寿命の延伸によるシルバー人材の増加、リモートワークに代表される働き方の多様化など、就労・求職環境は大きく変化しています。フォーラムの第1部では、そうした変化に対応できる優秀な人材の育成を期待されている大学が、現在どのようなリカレント教育カリキュラムを行っているのかを話題提供しました。第2部では、第1部の話題を受けて大学と企業が意見交換を行いました。

Topic 1兵庫県と文部科学省よりリカレント教育施策の報告

フォーラムの開催にあたって、兵庫県 企画県民部管理局の森本昌氏が挨拶、文部科学省 総合教育政策局の川島志月氏が話題提供(講演)を行いました。

兵庫県 企画県民部管理局 森本昌氏

社会人の学ぶ意欲とキャリアアップなどニーズの高まりを受けて、大学をはじめとする高等教育機関においては特色を生かした専門的・実践的なリカレント教育プログラムの実施により、社会構造の変化に対応できる優秀な人材の育成が期待されています。

また、コロナ禍でも学習機会の確保を目的としたオンライン授業など、時間や場所にとらわれず学べる環境も整いつつあります。そのため、兵庫県でも大学や企業と連携しながらリカレント教育の充実に向けた取組を推進しています。

今回のフォーラムは、講演や事例紹介を通じてリカレント教育に関する理解を深めていただくとともに、本県におけるリカレント教育推進の機運醸成が目的です。本フォーラムが、リカレント教育の推進、アフターコロナの課題解決における産学官連携の強化の契機となることを期待しております。

文部科学省 総合教育政策局 川島志月氏

リカレント教育の認知度はおよそ45%程度といわれており、コロナ禍において20代・30代からなる若年層の関心が上昇傾向にあります。リカレント教育とは法律等で明確な定義があるわけではなく、生涯学習と並べて紹介されることがあります。生涯学習は読書やパズルといった趣味・教養に近いイメージがあるようですが、政府はリカレント教育を就職や転職につながる実践的な学びと位置付けており、そうした取組を援助していきたいと考えています。

特に最近はコロナの影響で、非正規の方や解雇見込みの方の増加など厳しい雇用情勢が続くなか、学びへの関心や重要性がますます高まっていると感じています。社会人の大学等での学びを応援するサイト「マナパス」においても、若年層や女性によるアクセスが伸びているため、そうした関心や意識の変化を政策提案に反映する必要があると考えています。

本年度の6月に閣議決定された政府方針には、リカレント教育に関する記載が多く入っています。デジタル人材の育成や非正規の方の就職支援に役立つ教育を重要視し、専門人材の育成や情報発信を通して学習基盤の整備をしっかりやっていくことが明記されました。

また、リカレント教育は文部科学省・厚生労働省・経済産業省の三省で進めていますが、これまではやや見えにくかった役割分担や取組内容をしっかり整理して方向性を定めていくことも記載されました。

現在マナパスには5,000以上の講座が掲載され、特集ページやランキング機能も充実してきています。外部の職業検索サイトとの連携も進めており、各プログラムがどういった仕事に結びつくかを可視化できれば受講生がプログラムを選びやすくなるだろうかと考え、システム改修を進めている最中です。9月末に実装されたマイページは、今後学習記録機能や講座のレコメンド機能、ユーザー同士の情報共有機能など、さらなる機能拡充を検討しています。次年度以降も既存の機能やコンテンツをしっかり更新しつつ、企業にとっても役立つサイトとなるよう改修と情報発信を進めていきたいと考えています。

Topic 2大学コンソーシアムひょうご神戸加盟校・取組事例の紹介

第1部では、リカレント教育事業を推進する神戸大学・園田学園女子大学・兵庫大学が、それぞれの取組事例を紹介しました。

神戸大学 大学院農学研究科 田中丸治哉教授

神戸大学は「食農ビジネスキャリア形成プログラム」というテーマを手掛けています。このプログラムは、食と農のビジネスに関する基礎知識を学ぶ講座(ラーニング)、仕事の現場を知るためのインターンシップや現地調査(ジョブリサーチ)、キャリアデザインのワークショップや個別相談(キャリアサポート)の三本柱で構成されています。

講座やインターンシップでいろいろな企業に協力していただくことで受講生と企業のマッチングや、食に関するフードビジネス、農に関するアグリビジネスへの誘導を図っています。本学のリカレント教育は総合大学として食農に関わる知を提供するものと認識しているため、職業訓練というよりは知の拠点である大学ならではの学びとして教養を提供し、受講生の視野が広がっていくことを期待しております。

園田学園女子大学 経営学部 大江篤教授

本学のリカレント教育は「凛としてしなやかに〜地域とつながる〜女性応援リカレントプログラム」という名称で、地域と共に社会を担う女性の育成を目的としています。労働局、ハローワーク、各種経済団体、企業等と連携して、プログラムを構築・実践しております。

経営学部の教員を中心としてビジネススキルを学ぶ講座、地域について知る産業構造・地域課題についての科目、さらに起業につながるアントレプレナーシップやコミュニティ・ビジネスの要素も取り入れました。長期のインターンシップが難しい子育て中の女性向けに、経営者と1日一緒に過ごすというプログラムも用意しています。

女性の場合、世代やライフステージに応じて働き方も大きく変化します。正規雇用を目指さなかったり、年単位のスパンで起業を目指したりと、ニーズが非常に多彩です。大学としても企業と受講生のマッチングについてどんなアプローチがあるか、他大学さんのお話を参考にしたいと考えております。

兵庫大学 エクステンション・カレッジ事務室 吉田浩司課長

兵庫大学のリカレント教育事業は「エクステンション・カレッジ事務室」が担当し推進しております。エクステンション・カレッジは公開講座・研修の運営のほか、ボランティアセンター、介護と看護の研修施設を備える地域医療福祉研修センター、地域社会との連携やさまざまなプロジェクトを手掛ける社会連携オフィスの3つを事務所管として位置付けているため、さまざまな関わりが選択できる立場にあります。

具体的には2つのコースと6つのプログラムが採択されており、求職者支援コースと職業実践力コースに分かれます。求職者支援コースは職業訓練の範囲に入り、就職基礎力の向上プログラムや簿記・会計、コミュニケーションやビジネスマナーを学べるようなプログラムです。職業実践力コースはDXや統計学、AIなどを取り扱うデータサイエンス、介護員養成研修、二級建築施工管理技士養成講座、観光業に関するマネジメントなどが学べるホスピタリティ講座です。

当事業での申込者は受講希望者が多く新規開拓がうまくいっていることから、新たな生涯学習やリカレント教育の機会を提供できる流れができていると思っています。

Topic 3大学と企業によるリカレント教育の意見交換

第2部ではリカレント教育を推進する大学と人材の採用と、育成を重要視する兵庫の企業が、意見交換を行いました。

株式会社ワールド・ワン 取締役 松波知宏氏

ワールド・ワンは神戸の三宮に本社を構え、郷土料理の産地と消費地をつないで、郷土の食材を盛り上げて次の世代に引き継いでいく事業に取り組む会社です。地域連携型の飲食店を三宮と東京、大阪を中心に26店舗運営しています。

全国各地域と連携協定を結びながら、地域の食材や食文化にフォーカスした店舗づくりを特徴としています。店舗名は地名を入れたものが多く、土佐清水ワールド、山陰・隠岐の島ワールド、青森ねぶたワールドなどがあります。地域だけで消費されて地域外には普段出回らないような食材を取り扱うことで、他の店舗との差別化を図っています。

また、店舗づくりにも地域の特徴を強く反映しています。例えば青森ねぶたワールドの場合、大間のマグロで解体ショーを開催したり、ねぶた祭りで実際に使われたねぶた人形を一部いただいて店頭に飾ったりということを行っています。

株式会社みつば電気 代表取締役 岡本光代氏

弊社は尼崎に本社をもつ、電気工事を主体とする総合エンジニアリング会社です。社員数が20名に満たない小さな会社ではありますが、人と地球にやさしい技術で社会貢献することを使命として三方よしの精神で経営しています。

現在取り組んでいるテーマは技術の継承。年長者と若手の世代間ギャップを少しでもなくせるように、私を含めた女性社員4名が中心となって、声のかけ合いと励まし合いで風通しが良い職場づくりを目指しております。コロナ禍で営業活動が難しくなっている状況ですが、蓄電池の販売や再生可能エネルギーなどをもっと普及させていければと思っております。

社会福祉法人 日の出福祉会 教育・研修課長 淺原美惠氏

私たちは日の出医療福祉グループに所属する社会福祉法人です。日の出みりんで有名なキング醸造という会社が、90周年を記念して地域貢献のために発足させた事業が始まりです。

新入社員を毎年60名前後採用しており、内訳が保育20名、医療10名、介護は30名ぐらいとなっています。商学部や経営学部、文学部といった福祉とは関係の薄い学部の卒業者を多く採用していることが特徴で、内定者は卒業までに初任者研修を受けて介護の資格を取得します。その後、介護福祉士の資格取得までの3年間で、将来ゼネラリストとなるかスペシャリストとなるか、自分で決めてもらうようにしています。

全国160の事業所が採用した人材の受け皿となり、個々が希望するキャリアルートを用意することにつながっています。会社の成長と従業員の幸せを両立させる組織構造が、私たちなりの人材育成スタイルだと考えています。

兵庫大学 田端和彦副学長

各大学様からは実施されているリカレント教育を、各企業様からはどのような理念でどのような事業を行っているかについてご報告をいただききました。皆さん共通で課題とされているのが、大学と企業・受講者のマッチングかと思われます。

企業側には自分たちのミッションやビジネスを理解してくれる、共感してくれる人に入ってきてほしいというニーズがあります。各大学はそのような人材をどうしたら提供できるのか、ということについて意見交換をお願いします。

神戸大学 大学院農学研究科 田中丸治哉教授

食農ビジネスは生産や販売だけでなく、衛生管理や運送などたくさんの要素があって成り立っています。本学としては講座で得られた知識や教養で視野を広げていただき、結果的に就職するのが少し遅れたとしても、学びの中で自分が合った仕事は何かじっくり見極めていただきたいと考えています。

株式会社ワールド・ワン 取締役 松波知宏氏

我々のビジネスは、来店されたお客様に食文化を通して当地のファンになっていいただくことを目指しています。ですから従業員も調理や接客の技術だけでなく、文化的な知識を得ることも必要なため、企業としてもそれができる体制・環境を整えなければいけないと感じています。

園田学園女子大学 経営学部 大江篤教授

受講生と面談をすると、何が何でも就職したいというよりも、子育てをしながら地域社会に関わる仕事に携わりたいとか、自分と同じ課題をもつ人とつながりを作りたいとか、そういう受講者が多くいます。特に女性は子育てを経験すると、地域の一人として一歩踏み出したいという意欲を抱く傾向があるように思われます。本学としても地域の構成員として培ってきたネットワークで人と人をつなげて、新たなものが生まれることを後押しすることも我々の重要なミッションだと認識しているところです。

株式会社みつば電気 代表取締役 岡本光代氏

園田学園さんのお話は、素晴らしい取組だと思います。在宅勤務が普及したことで、例えばベトナムでは在宅で起業した母親に仕事を依頼すると、素早く対応してくれるそうです。中小企業はいま慢性的な人材不足なので、ベトナムのように女性が働きやすい環境が整備されれば、状況が改善されると思います。リカレント教育の取組を通して企業間をつないでいただきたいですね。私達としても商工会やハローワークなど各機関と連携しながら、積極的に取り組んでいきたいと思います。

兵庫大学 エクステンション・カレッジ事務室 吉田浩司課長

地域への貢献という話が出ましたが、そういうことに関心を持たれる方は本当に多くいらっしゃいます。本学では「生きがい創造講座」で生涯学習の取組や地域を学べますが、特にシニア層の受講生が学んだ地域の情報を発信する機会として利用されています。そうした方々にはさらなるリカレント教育推進にご協力いただいていまして、かつての受講生が今の受講生に興味関心を伝えていく、そういった学びのスタイルができあがっています。

日の出福祉会 教育・研修課長 淺原美惠氏

福祉の方でも、50代60代で介護の勉強をしたいという方がある程度いらっしゃいます。地域の高齢者の方のお手伝いをしたいという思いがあり、そのために知識を必要とされているわけです。特に女性が積極的で人数も多く、そういった方へ情報提供を行い、地域で活動していただいています。

文部科学省 総合教育政策局 川島志月氏

皆さんありがとうございました。お話を伺って、政府がこれから目指すべき姿と大学の取組は、同じ方向に向かっていると感じることができました。兵庫大学さまのエクステンション・カレッジでかつての受講生が教えに来てくれるというお話は、リカレント教育の、教える側の人材不足という課題について面白いモデルケースになりそうだと思いました。

リカレント教育を受けた方が希望する仕事に就けたのか、継続して学んでいるのかといったフォローアップも行っていければと考えています。また、厚生労働省と連携して、費用面での支援体制をつくることも目指しています。文部科学省のみならず、関連する組織と力を合わせながら、よりよい制度にブラッシュアップしていきたいですね。