特集:Society5.0に必要な学び直し

人工知能(AI)、ビッグデータ、Internet of Things(IoT)などの情報技術は、私たちの日常に急速に浸透してきています。2030年頃にはあらゆる産業や社会生活が劇的に高度化され、人類がこれまで体験したことのない社会が訪れると言われています。

「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定)では、新たな科学技術が牽引する次の時代の社会像として “Society5.0” という概念が提唱されました。 “Society5.0” は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることにより経済的発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を指します(「科学技術イノベーション総合戦略2017」)。

Society 5.0が実現すると、私たちの身の回りに存在する様々なAI・IoT機器等から得られる膨大なデータ(ビッグデータ)が、サイバー空間に集められ、AIにより解析された結果、インターネットに接続された多くのモノやロボットを作動させ、様々な分野において業務の自動化等といった革新的な変化が起こるとされています。その結果、10~20年後には、日本の労働人口の約49%が代替できるようになる可能性が高いと言われています。

それでは、私たちはこれから迎えようとしている新たな社会にどのように対応していけば良いのでしょうか。

図1
Society5.0へ
図2
Society5.0で起こる変化
図3
日本の労働人口の約49%が代替できるように

求められる人材像

Society5.0の社会においては、AIを含めた新たな技術の導入やシステムの変革が必要であるとともに、機械やAIでは代替できない人間の能力により付加価値の高い雇用を拡大していくことが不可欠です。その結果、社会変革の大きなきっかけの一つとなっている「AI」を作り、活かし、新たな社会の在り方や、新しい社会に相応しい製品、サービスをデザインし、新たな価値を生み出すことのできる人材がますます求められています。

このような背景から、私たちはデジタル社会の基礎知識である「数理・データサイエンス・AI」に関する知識・技能の習得はもちろんのこと、AIやデータ等のITを活用して社会や企業の様々な課題を解決していくための専門知識を育む必要があります。

IT人材の不足

Society5.0の実現が人類規模の課題の解決、SDGsの達成に貢献する可能性があると言われている一方で、 その中心となるべき、ITサービスの提供に関わる人材やITを活用する人材であるIT人材の不足は深刻です。「IT人材白書2019」によれば、2018年調査でIT人材が大幅に不足しているとしたIT企業の割合が全体の31.9%と過去最多となっているほか、2030年には最大で約79万人程度までIT人材不足が拡大するとの推計も出ています(みずほ情報総研株式会社「IT人材需給に関する調査」調査報告書(2010年3月))。

その一方で、経団連の調査によると、企業が大学(専門職大学)に最も期待する分野として、「システム・エンジニア、プログラマー」「情報セキュリティ人材」の育成を望む声が多く、企業もSociety5.0実現に向けた人材の確保を求めています。また、学生に求める資質、能力、知識としては主体性や実行力のほか「課題設定・解決能力」や「創造力」が上位となり、技術革新が急速に発展する中、自らの問題意識に基づき課題を設定し、主体的に解を創り出す能力が求められていることが示されました。

喫緊の課題であるSociety5.0へ対応するには、デジタル社会の基礎知識である「数理・データサイエンス・AI」の基礎などの必要な力を個人の年齢や職業の性質等に応じて、リテラシーレベル・基礎レベル・エキスパートレベルの能力を育成することや、創造性や感性を活かし、自ら課題を発見・解決して新しい価値を生み出していくような人間ならではの能力の育成が必要になります。

本特集では、これらの知識・スキルについて学習が可能な大学をいくつか御紹介します。

図4
IT人材不足の拡大
図5
企業が大学に最も期待する分野
図6
企業が学生に求める資質、能力、知識(文系)
図7
企業が学生に求める資質、能力、知識(理系)

早稲田大学
スマートエスイー:スマートシステム&サービス技術の産学連携イノベーティブ人材育成

課程の概要、教育目標等

本カリキュラムでは、超スマート社会の実現に必要なAI・IoT・ビッグデータ分野を体系的に学び、領域を超えて徹底的なケーススタディを行うことで実践力を養い、国際的にも活躍できるイノベーション人材を育成します。
開講期間は4月から9月の半年間で、30名を募集しています。受講を通して、AIやビッグデータ、IoTを用いたビジネス展開に必要な情報処理、アプリケーション等の専門知識(IoTシステム技術検定 上級程度の知識)と、それらを扱う基本的な技術が身に付くとともに、技術群を組み合わせて価値を創造する実践力を身に付けます。
システムコンサルタント、システム設計技術者、ソフトウェア開発技術者などの情報処理・通信技術者や情報技術を活用しサービス展開を行う企業の技術者などにお勧めで、卒業生は職場でのキャリアアップや課題改善・発展、大学院進学などを行っています。
また、専門実践教育訓練給付指定講座でもあり、受講にあたっては厚生労働省の基準に基づき費用補助が受けられます。

社会人の受けやすい工夫

e-ラーニング(一部)による予習・復習機会の提供があるほか、授業は平日夜または土日に開講されます。

受講者 奥谷大介氏

理論からビジネスへの実践まで、網羅的に学べるスマートエスイーに大きな可能性を感じて受講しました。普段の業務に取り組むなかで、AIにおける技術とビジネスのギャップを課題に感じていましたが、スマートエスイーで、最先端ICT技術を広くフルスタックに学んだことで課題解決への筋道が見えました。また修了制作を通して、具体的な解決方法に一歩近づくことができたと思います。今回の修了制作をもとに社内で新たな提案ができれば、社内のビッグプロジェクトが生まれるのでは、と期待しています。

早稲田大学スマートエスイー事業責任者 鷲崎弘宜 教授

日本の企業は技術要素に優れています。しかし領域や利害関係を超えて全体を俯瞰して組み合わせ、ビジネスへと結びつけることに後れを取っています。本格的なスマート社会を切り拓くにあたり、今こそ産学連携による実践的な学びにより国際競争力を強化するときです。スマートエスイーは体系的カリキュラムにより広く領域をカバーし、徹底的なケーススタディによる技術とビジネスの接続を実践します。

東京電機大学
国際化サイバーセキュリティ学特別コース

課程の概要、教育目標等

幅広くかつ高度なサイバーセキュリティ能力を育成するために、国際的な情報セキュリティ・プロフェッショナル認定資格であるCISSPの共通知識体系を基本とした科目のほか、攻撃者の意図や行動を「洞察する」科目、法律・倫理など制度的枠組みを「理解する」科目など、1年間の受講期間で前期4科目/後期3科目、合計7科目(演習含む)を用意しています。各年度、前期40名・後期15名を募集しております。
CISOやCSIRT、SOC(※)で活躍する高度サイバーセキュリティ専門家を目指している方にお勧めで、本コース(CySecコース)の卒業生は、専門知識を活かしたキャリアアップやCISSP資格取得の実績があります。
また、専門実践教育訓練給付指定講座でもあり、受講にあたっては厚生労働省の基準に基づき費用補助が受けられます。

(※)CISO(Chief Information Security Officer:最高情報セキュリティ責任者)
CSIRT(Computer Security Incident Response Team:セキュリティのインシデントに対応する組織)
SOC(Security Operation Center:サイバー攻撃の検出や分析、対応策の助言等を行う組織)

社会人の受けやすい工夫

平日夜間または土曜に開講しておりますので、大半の方が勤務しながら受講いただいております。また、最大4年間の長期履修も可能です。

受講者 小林恵子氏

シラバスを読み、カバーするコンテンツの広さや著名な講師陣に興味を持ち受講しました。給付金制度や働く女性へのサポート制度が用意されていること、セキュリティのトレーニングコースとして講義内容が充実していることが魅力でした。社会人になると学習時間を確保することが難しくなりますが、CySecコースでは各講義で凝縮した学びを得られると思います。受講後はCISSPの資格を取得し業務に生かしたいと考えています。

東京電機大学 佐々木良一 教授

本コースは、サイバーセキュリティに関する国際的な認定資格「CISSP」対策講座があるほか、セキュアシステム設計開発やフォレンジック等のテクニカルな科目、関連する法律や倫理・ガバナンス等にも亘るカリキュラムも配置しております。現在、関連する職に就かれている方、またはその職に就かれたい方の受講をお待ちしております。

慶應義塾大学 大学院
システムデザイン・マネジメント研究科

課程の概要、教育目標等

本課程では、分野横断型学問であるシステムデザイン・マネジメント学(SDM学)を身につけることによって、現代社会における大規模・複雑化する技術システム・社会システムの諸問題を創造的・実践的・分野横断的に解決できる人材を育成します。
SDM学の基盤は、システムズエンジニアリング、プロジェクトマネジメントおよびシステム×デザイン思考から成り、実践的・双方向的に設計された科目を学ぶことにより、各自の課題に応じた形でSDM学を身に付けることができます。
既に何らかの専門性を有する社会人のために、知識修得に多くの時間を割く「ラーニングインテンシブコース」と、どちらかと言えば授業よりも研究に力点を置きたい社会人学生のための「リサーチインテンシブコース」を設けています。
2年間の修士課程で入学定員は77名(収容定員154名)です。
専門実践教育訓練給付指定講座でもあり、受講にあたっては厚生労働省の基準に基づき費用補助が受けられます。

社会人の受けやすい工夫

授業は、平日夜間および土曜日にも開講するほか、e-learningによる履修を実施しています。

受講者 佐藤優介氏

私は大学院の説明会に参加した事をきっかけに、入学を決めました。入学を決めた理由は、所属する会社がデザイン思考やアーキテクチャの領域を強化しており、体系的に学ぶ必要性を感じていたためでした。実際に入学した後は講義や研究活動などの学びに加え、多様な年代の同級生たちからの学びも大きく、この2年間で視野が大きく広がりました。修了後は大学院で学んだことを仕事に生かしつつ、研究活動も続けていきたいと考えております。

慶應義塾大学 五百木誠 准教授

「正解を誰も知らない」という世界で、社会人が身に付けるべき知識や能力は何か?実践も交えて体系的に学べるユニークな大学院です。私が担当する「デザインプロジェクト」という講義では、職業も専門分野も年齢もバラバラの多様なメンバーが一つのチームを作り、現実の社会課題を解決し新しい価値を生むイノベーティブなソリューションの創出に取り組みます。受講者は、様々な手法を身につけるだけでなく、新たな視点を獲得することでマインドセットが大きく変わります。学んだことは、普段の仕事にも大いに役立っているようです。