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岩手大学 いわてアグリフロンティアスクール
- 理学・工学・農水産系
- 大学
- 仕事の幅を広げるため
農業が家族経営から組織経営に変わるために、法人経営者として学んだ
若江俊英さん
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株式会社いわて若江農園(岩手県盛岡市)代表取締役社長。いち早く「スマート農業」に取り組み、トマトの生産で驚異的な収量を実現した若江さんだが、自社の新卒採用を機に、いわてアグリフロンティアスクールを受講し、農業の将来を見据えて学び直すことを決意した。
新規就農から11年目で、IAFSを初めて受講
若江俊英さんは、トマトを生産・販売する岩手県盛岡市の農業生産法人株式会社いわて若江農園(以下、若江農園)の代表取締役で、2019年度に岩手大学いわてアグリフロンティアスクール(以下、IAFS)を受講した。
「IAFSは、県内の農業者の間では広く認知されているスクールで、友達の農家でも受講した人がたくさんいます。私は農業を始めて11年目で受講したのですが、周りからは『あれ、若江さん、まだ受講してなかったの?』と言われました」。
若江さんは、工学系の大学院を修了後、自動車メーカーでエンジニアとして働いていたが、農業者への転身を決意。山梨県の農業生産法人と盛岡市の野菜農家で約1年半の研修を受けた後、妻と2人で家族経営の農業を始めた。出身は盛岡だが、実家は農家ではなく、若江さんは新規就農者だった。
農業を始めた当初の目標は、「家族経営で食べていける、小さいが効率的な農業」。就農1年目から黒字を出していたが、次第に「産業としての農業の成長」を考えるようになった。そして、2016年、現在の農業生産法人を〝起業〟。鉄骨ハウスに、ハウス内の環境をモニタリングするICT機器を設置。統合環境制御装置によってトマトの生育に最適な環境をつくり、周年栽培を実現した。その結果、若江農園の面積当たりの年間収量は、県平均の約6倍になっている。
岩手県内の他産地に先駆けて環境制御技術を導入した若江さんは、「スマート農業」の実践者として注目される存在。若江農園の経営は順調で、技術面では、盛岡農業改良普及センターなど岩手県からの支援も受けている。
では、何を学ぼうとして、若江さんはIAFSを受講したのだろうか?
農業全般に共通する「人」に関する悩み
学び直そうと思ったきっかけは、「初めて学卒新卒者を採ろうと思った」ことだったという。
「IAFSに受講を申し込んだ当時は、社員が1人と、通年雇用しているパートが10数人いました。生産規模を少しずつ拡大させていこうと考えていて、学卒の新卒者を採りたいと思ったのです。中途採用で人を採ったことはありましたが、学卒新卒者を採るとなると、やっぱりこちらの覚悟が違ってきます。『きちんとした会社組織にしていかないと』と思い、学び直すことにしました」。
2019年度のIAFS受講者は、20〜63歳の34人。米、野菜、畜産関係など、いろいろな分野からの生産者が集まってくる。
「いろいろな人と、いろいろな話ができたのは、新鮮で面白かったですね。私と同じ農業生産法人の経営者が比較的多かったと思いますが、中には、IAFS修了後に農業を始めるという〝0年目〟の人もいました。そういう若い人たちに先輩の生産者が経験を教えるという場面も多くて、『そういえば、自分もあんな感じでよく教わったなあ』と、昔を思い出しましたね」。
生産・栽培に関する技術的な課題は品目ごとに違っていても、「経営」という観点で見ると、農業全般に共通する課題も多い。 「IAFSで話をする中で共通項として挙がっていたのが、『人』に関する悩みでした。『思うように仕事をしてもらえない』ということに私も含めてみんな悩んでいて、『こちらのやってもらいたいことをうまく伝えて、きちんと成果を出してもらえるような仕組みをつくらないといけないね』というところに話が落ち着きます」。
そうした「人を雇う」ことに関する悩みの背景には、「農業に『雇用する』という歴史があまり長くない」ことがあると、若江さんは考えている。
「家族主体でやってきた時代は、『あそこ行って、あれ取ってきて、これやってくれ』式の会話で通じていました。しかし、農業を儲かる産業にするには規模の拡大は不可避で、これからは農業も労働者を雇用し、経営と農作業を分けるという視点も必要になってくると思っています。そのとき、どう人に働いてもらうのかはとても重要な課題です。私がIAFSで一番学びたかったのも『人的リソースの管理』の問題で、新卒者を受け入れるに当たって、その部分をよりきっちり整備しておきたいと考えたのです」。
「変えていくために、学ばないといけない」を実践
農業における〝労務管理〟という若江さんの課題意識に対して、IAFSの講義は、解決の方向性を示唆してくれたのだろうか?
「IAFSのカリキュラムは、農業経営全般についてバランスよく構成された内容だと思います。その中で、『人』にフォーカスした、すごくためになった講義も複数あって、受講してとても良かったと思っています。特に『リーダーシップ』に関する講義は、『そう、これが聞きたかったんだよ』と感じた内容でした。農業経営におけるリーダーシップについて学ぼうとしたとき、選択肢はなかなかなくて、それが学べるだけでもIAFSの価値はあるんじゃないかと思います」。
IAFSで学んだことを踏まえ、「就業規則」の策定を視野に、若江さんは社会労務保険士を交えて「人」に関するルール、制度全般についての勉強を始めた。それは、農業を、家族経営から本格的な組織経営へと変えていくための重要なステップだ。
今、若江さんは、企業家マインドを持って、農業を変えていかなければならないと考えている。そして、「変えていくためには、学ばないといけない」と語り、語るだけでなく実践もしている。
その若江さんは、後に続く人たちに、こう語りかける。
「課題があって、それに取り組んで、何か成果が出る——このプロセスを起動させるスイッチの入れ方は人それぞれでしょうが、スイッチが入れば、人は意外と貪欲にキャッチアップしていこうという気持ちになるものです。そして、成果が出れば単純にうれしくなります。農林水産業界には課題が多くありますが、それだけ学ぶチャンスと、成果を得られる機会が多い業界だとも言えます。一度、成果を出して、『やったぜ!』という気持ちを味わってみてほしいと思います」。