在学生・修了生インタビュー

高知大学 土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業課題研究コース

  • 理学・工学・農水産系
  • 大学
  • 専門性を高めるため

800時間の研究で、自家栽培のグァバからオーガニック化粧品を開発

西川きよさん

長男の隼平さんがアトピー性皮膚炎と診断されたことをきっかけにオーガニック化粧品を扱う会社を設立。高知大学の土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業で学んだ長男の研究に刺激を受け、自身も同大学で研究に取り組み、新たなオーガニック化粧品を開発した。

まず長男が土佐FBCでグァバ茶を研究、科学的エビデンスを得た

高知大学の「土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業(以下、土佐FBC)」は、食品産業を成長に導く中核人材の育成を目指すプログラムで、2008年度にスタートした。土佐FBCが設定する履修コースのうちの一つに、各企業が持ち込んだ課題を土佐FBC専任教員がマンツーマンで指導する「課題研究」を柱にするコースがある。この課題研究コース(土佐FBC設立当初の呼称は「Aコース」)は、①食品製造・加工、マネジメント、品質管理などの座学160時間、②成分分析などの実験技術と微生物管理などの現場実践学の演習80時間、③課題研究、を2年間かけて行うというハードな内容。これまでの受講生の課題研究の最長時間は、800時間にも及ぶ。

その「課題研究800時間」という記録を持っているのが、西川きよさんだ。長男の隼平さんがアトピー性皮膚炎と診断されたことをきっかけに、それまで「高卒の、普通の主婦だった」という西川さんは、「食」をはじめ体内に取り込むものの安全性を徹底的に研究するようになる。1999年には、化学物質を使わないスキンケア商品の開発を目的に有限会社アフロディアを設立した。

その後、グァバ茶の健康効果に着目し、2009年から茶葉を仕入れティーバッグを作り始める。同時に、アフロディアで働いていた隼平さんが「グァバ茶の機能」の本格的な研究に取り組むことになり、土佐FBCのAコースを受講する。隼平さんは、土佐FBCの2期生となった。

隼平さんの研究により、グァバ茶の効果を裏付ける科学的エビデンスを得ることができた。2011年、西川さんは農園を取得し、グァバを定植。農薬や肥料、除草剤などを一切使用しない徹底した自然農法によりグァバを栽培し、グァバ茶の生産を拡大させていった。

一方、化粧品については、かねてから「オーガニックコスメを作りたい」と考えていた。

「長男の研究で、グァバ葉がチロシナーゼ活性阻害や抗酸化作用に優れ、美白作用や抗シワ・たるみ作用が期待できることが判明しました。その時はピンと来ていなかったのですが、何年か経って私がオーガニックコスメを作ろうと決めた時に、『自社農園で栽培したグァバが原料になる!』と、気付いたんです」。

グァバ葉の機能性の研究が指導教員に評価され、学会で成果を2回発表

2013年度、西川さんは「スキンケア素材としてのグァバ葉エキスの機能性の研究」を課題にして、土佐FBCのAコースを受講する。

「Aコースの同期生は10人以下の少人数で、私が一番年上でした。会社にお勤めの人、食材の仕入れ業の人、いろいろな人がいましたが、志を同じくする仲間のような感じです。みんな消費者の身になって意見を言い合い、お互いに高め合っていました」。

1年間の座学を経て、2年目から演習、課題研究に入る。グァバが持つ機能性を徹底的に分析し、有効成分を最大限に抽出できる製造条件などの研究に取り組んだ。

「先生の指導は上から目線ではなく、並走してくれました。研究の途上、その時点、その時点で何が必要なのかを分かっていてくれて、非常に丁寧に教えてくださいました」。

800時間の研究は、その熱心さとともに、内容も高く評価された。先生に薦められ、2014年と2015年の2回、日本農芸化学会で研究成果の一部を発表した。先生の指導の下、何回もリハーサルを繰り返し、想定される質問に対する応答も準備したという。

こうした研究の結果、自家農園で栽培したグァバを使った「天海のしずくオーガニック」が完成。2014年9月、販売を開始した。天然原料配合率がほぼ100%、うち、オーガニック由来成分が90%以上。「せっかく作るのだから、中途半端なものではなく、お客さまが驚くような品質のものを作ろう」という執念が実った形だ。土佐FBCでの研究を振り返って、西川さんはこう語る。

「自分のところで育てているグァバが、他県産や海外産の物と比べて圧倒的に高い機能性を持っていることが、次々にデータで分かってくる。それは、楽しいですよ。もっと調べたいこと、試してみたいことがあって、2年は短かったと感じています」。

新製品の開発を目指し、2020年、再び土佐FBCに入講

さらに、2016年度には、特別支援学校の教師をしていた西川さんの夫、一司さんが、土佐FBCのAコースを受講。一司さんは、早期退職し、障害者の雇用の受け皿となる就労継続支援B型事業所を設立しようとしていて、その経営を安定させるために果実のグァバの商品化を検討したのだ。

2017年、一司さんが代表理事となり、高知市の東に隣接する南国市に「一般社団法人エンジェルガーデン南国」が創立された。そのエンジェルガーデン南国が、障害者を雇用し、農園の運営を引き継いだ。障害者が丁寧に育てたグァバは、「土佐國グァバ茶」「天海のしずくオーガニック」と、新商品「冷凍グァバピューレ」になる。冷凍グァバピューレは、一司さんの研究の成果だ。

2019年には、アフロディアの事業もエンジェルガーデン南国に統合。西川さんは、エンジェルガーデン南国の統括マネージャーとしてさらなる新製品の開発を目指し、何と!2020年度、再び土佐FBCに入学した。お茶、化粧品、ピューレに続く、4つ目の商品が生まれる日も近そうだ。

エンジェルガーデン南国は、「農福連携」「6次産業化」を推し進め、さまざまな形で地域の経済と社会に貢献しようとしている。そして、その事業の基盤には「学」との連携がある。自らの事業に足りていない部分を補うために、あるいは、事業を推進する原動力とするために、大学での学び直しを活用した好事例と言えるだろう。