リカレントプログラムの成功は
“いかに人を集められるか”がカギ
リカレントプログラムの成功は
“いかに人を集められるか”がカギ
質・量ともに新たな人材の活躍が求められる食農分野での就農・就業を希望する人材に対して、知識の学び直しと業界情報の取得、視察研修やプロジェクト学習、インターンシップを通じた現場体験、キャリア再考の場を提供することで、キャリア形成、円滑な就職・転職等を多面的に支援。
- 定員の約5倍。147名もの受講希望者を集めた神戸大学の広報戦略
- リカレントプログラムと受講者のミスマッチを避けるオンライン相談会
- 発想の切り替えをして、人を集めるためにできることを考える
定員の約5倍。147名もの受講希望者を集めた神戸大学の広報戦略
——神戸大学のリカレントプログラム「食農ビジネスキャリア形成プログラム」はどのような経緯で始められたのでしょうか?
眞鍋: 本学は20年に渡って、地域連携や地域貢献を意識した教育研究に取り組んでいます。社会人向けの学びのプログラムや地元の方に新たなキャリアを築いてもらうことは、地域貢献にもなりますし、大学として取り組む意義があるのではないかと考え、手を挙げました。
農学研究科では、ここ10年ほどインターン型の授業を行ったり、農学研究科の地域連携センターを通して神戸市や丹波篠山市と共同で地域の人材育成プログラムを運営してきました。そのノウハウや外部との連携を生かせると考えて、農学研究科が中心となって、このリカレントプログラムを進めることにしたのです。
——定員30名に対し、147名もの方が申し込みをされたとお伺いしています。
眞鍋: 大学としても初めてのプログラムですし、定員として設定した30名も、受講生が集まらないのではないかと最初は不安を感じていました。いかに多くの人に興味を持ってもらって、応募してもらうかが重要だと思っていたので、広報、周知は特に力を入れて行いましたね。
私は神戸大学の教員ですが、企業でも働いているので、「普通の企業であれば、人を集めたい時にこれぐらい考えて広報するだろう」という視点を持って進めました。
——実際にどのような広報、周知をされたのでしょうか?
眞鍋: まずはメインビジュアルを作って、ホームページ、ポスター、パンフレットを用意しました。今回、神戸大学では「食と農で働く」をテーマにしているので、それが分かりやすく伝わるデザインにしています。
作成したポスターとパンフレットは、神戸市営地下鉄西神・山手線16駅、ハローワーク11ヵ所、図書館や行政、神戸市内の掲示板、専門学校、銀行、コープこうべ63店舗、ジュンク堂といった企業様にもご協力をいただき掲示しました。
Webはホームページを中心に、Facebook、Instagram、Twitterで広報、周知をし、オンライン相談会も約1ヵ月の間に計20回行っています。特にSNSは、それぞれユーザー層が違うので、ユーザーに合わせて文言を変えるなどの工夫もしました。
——取りこぼしがないように広報、周知をされたという印象を受けますが、特に広報効果があったものはどれでしょうか?
眞鍋: 受講希望者にプログラムを知ったきっかけをアンケートしたところ、SNSがきっかけという方が一番多かったですね。
次に多かったのはコープこうべさんのポスターでした。コープこうべさんも「うちにそんな広告力あったの?」と驚かれるほどの結果でした。
この広報のポイントとしては、プログラムの募集期間を8月10日から9月12日に設定したことです。これは、お盆前に募集をスタートしたいと考えてのことです。神戸に帰省する方もいるでしょうし、家族や友人から「コープこうべでこんなポスターを見たよ」と話題に上がる可能性が高まると思い、スタート時期にもこだわりました。
リカレントプログラムと受講者のミスマッチを避けるオンライン相談会
——多数の受講希望者が集まりましたが、課題として感じたことはありましたか?
眞鍋: SNSやポスターなどの効果もあり、応募開始から続々と希望者が集まってきました。シェアも多かったですし、反応もとても良かったです。ただ、SNS広告に関しては逆に反応が良すぎると感じて、途中で切り上げました。今回のリカレントプログラムは無料で行われているので、応募しやすい。だからこそ、広告経由だと内容を十分に確認せずに応募される方もいらっしゃるのではないかと感じたのです。
今回のプログラムは学び直しをして、早期の就職や転職につなげるという取り組みなので、ただ学んでみたい方や、何年か後に就職、転職したいといった方とは、認識のズレがあるわけです。また、今回の講座は「食と農の知識と教養」のリカレントプログラムであって、「食と農の技術と技能」を身につけるには限界があることも、受講希望者には理解してもらう必要がありました。そういった本プログラムの目的を理解してもらってミスマッチを防いだり、応募者の人となりを把握したりする意味でも、オンライン相談会はとても効果があったと思います。
オンライン相談会は20回行ったと言いましたが、8月12日から9月10日まで、3日に1日程度の頻度で、朝、昼、夜と時間を分けて行いました。相談会に参加してくださったのは延べ140名ぐらいで、その約半数の方が応募してくださいました。
発想の切り替えをして、人を集めるためにできることを考える
——かなり力を入れて広報・周知をされたことが伝わってきますが、他大学でも同様の取り組みは可能でしょうか?
眞鍋: 私は専任でやらせていただいたので、力を入れて広報・周知ができた部分はあるかもしれません。実際、オンライン相談会は有意義ではありましたが、とても大変だったのも事実です。ただ、ホームページに載せたりプレスリリースを出したりするだけでなく、「企業が人を集めるとしたらどんな広報をするか」という発想の切り替えができれば、担当者の人数が少なくてもできることはあるはずです。例えば、SNSでもユーザー層を考えて告知をしてみるとか、ポスターを作って、ご協力いただけるところに貼ってもらうとか、大学の取り組みを知ってもらうために、一つずつやっていくことが大切だと思います。
Voice
生活協同組合
コープこうべ
―オンラインで研修を行うにあたり、どのような工夫をされましたか?
講師以外に中継係を設置し、農園等の状況をリアルタイムの映像で伝えるなどの工夫をしました。一方で、「現地視察」という性質を考えれば、オンライン実施の場合、野菜ができている様子などをお見せできず、現地の臨場感を伝えることが難しいと感じました。
―どのような広報をされましたか?
神戸大学で作成いただいたチラシ・ポスターを、神戸市・阪神間63店舗で掲示・配布しました。チラシ・ポスターの反響が予想以上に大きく、コープこうべの組合員の食や農への関心の高さを感じました。
受講生
―受講したプログラムは、どのようなところに魅力を感じましたか?
幅広い食農の分野で活躍されている人のお話を聞けて、視野やキャリア選択の幅が広がりました。
受講生
―受講したプログラムは、どのようなところに魅力を感じましたか?
マーケティングやブランディングなど、ビジネスを始めるために必要な観点を学ぶことができるところです。食農に関する全般的な理解、時流、問題を俯瞰的に学ぶことができ、知識の獲得だけでなく、人的ネットワークを獲得できるのも良かったです。
受講生
―受講を考える方に、メッセージをお願いします。
子育て中のお母さんも、何人も参加されていました。20年振りの講義を聞いて自分の意見を書くことに慣れるのに時間が掛かりましたが、家族の協力のもと、なんとか完走出来ました。プログラムが終わったとき、これまでとは違った世界が広がっていると思いますよ。