特集:日本福祉大学の取り組み

未来の福祉人材を〝お節介な関わり〟でゴールまで支えたい

写真:リカレント教育推進事業 短期集中コースの様子

未来の福祉人材を〝お節介な関わり〟でゴールまで支えたい

地域共生社会における福祉人材確保の大学リカレント教育推進事業 短期集中コース
非正規雇用労働者、失業者、転職希望者などのうち、福祉分野への就職に関心を持つ者が対象。福祉の仕事に必要な知識・技術を効率的に、かつ短期間に修得させ、高齢者分野、障害者分野、児童分野など多様な福祉の業務を担える人材を養成し、福祉分野への就業・就職につなげるプログラム。
  • 福祉業界のイメージアップを託された大学リカレント教育
  • 同窓生が中心となり、クチコミで広げてくれた受講生募集
  • 学外連携の波及効果や実務家教員の必要性を再認識
  • 〝お節介な関わり〟を次の課題として、具体的な転職・就職サポートにつなげたい

福祉業界のイメージアップを託された大学リカレント教育

——日本福祉大学のリカレントプログラム「地域共生社会における福祉人材確保の大学リカレント教育推進事業 短期集中コース」はどのような経緯で始められたのでしょうか?

井上: 本学は創立当初から社会人教育を行ってきましたが、今回、幅広い方を対象に就職・転職支援と福祉人材確保を目的とするリカレント教育は、大学としても新たなチャレンジになると思い、取り組みました。開講にあたっては、経験豊富な本学講師陣のほか、連携先の協力による実習施設の確保や実務者人材の講師派遣、通信教育部におけるオンデマンドコンテンツの開発ノウハウを活かし、特色あるプログラムを設計しました。

——既存のプログラムとは対象が異なったのですね。

井上: はい。福祉に興味を持って学んでいる学生ではなく、福祉の知識、スキルがない社会人の方々が対象となるので、連携先となる福祉現場からは「業界のイメージアップにつながるプログラムを」と強い要望がありました。

本学は、福祉に関わる法人と実習教育にかかわる提携を結んでいたり、現任者研修を行う社会福祉総合研修センターを抱えていたりするので、日常的に介護・福祉現場の課題を把握することが可能な環境にあります。業界のイメージアップと同時に、「介護=高齢者」という社会的なイメージも払拭してほしいという声も多かったです。福祉には高齢者の領域だけでなく、子どもの領域もあれば障がいの領域もあり、福祉の対象は非常に広いものです。こうした実態、ニーズを踏まえたうえで、日本福祉大学らしい取り組みとは何かを意識し、今回のプログラムを立案しています。

——具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか?

井上: まず業界のイメージアップのため、VR教材を制作しました。擬似的に介護・福祉の現場を体験するシステムで、初めての方にも現場をイメージしてもらいやすいコンテンツです。非常にわかりやすく、良い雰囲気が伝わるVRが完成したと自負しています。

また、「介護=高齢者」のイメージ払拭のためには、実習先を高齢者施設に限定せず、なるべく多彩な福祉領域を体験できる仕掛けにしました。

同窓生が中心となり、クチコミで広げてくれた受講生募集

——受講生にはどのように広報・周知されたのでしょうか?

井上: 労働局やハローワークに訪問してチラシを置かせていただき、事業内容のご説明もさせていただきました。最も連携したのは愛知県社会福祉協議会が運営する愛知県福祉人材センターでしたね。

また、Webでの広報と合わせて同窓生にDMを郵送したのですが、エントリーいただいた方の半数(約30名)がDMを見た方か、DMをきっかけにご紹介を受けた方で、非常に嬉しい結果となりました。「大学を信用している人が、自信を持って薦めてくれる講座だから」という信頼こそ、大きな力になることを強く実感できた経験でした。

学外連携の波及効果や実務家教員の必要性を再認識

——学外組織との連携の効果はいかがでしたか?

井上: 例えば、コロナ禍に苦しむ旅館経営者が新たに福祉領域への事業展開を想定して、従業員に当該プログラムで学び直しを薦めた事例がありました。業界外の方々が福祉と接点を持つ良い機会になったと評価をいただきました。

——講師の先生方も学外の方が多いようですね。

井上: はい。今回、本学の教員以外にNPOや社会福祉法人の職員の方にも講師を依頼したプログラムがあったのですが、受講生からはかなり好評でした。今回の事業を通じて、外部講師・教員の評価の高さを十分確認できたことで、今後は実務家教員を積極的に登用するようなプログラムを検討していきたいと考えています。

——学外の連携効果もたくさんあったのですね。

井上: はい。実はそれだけではありません。今回、プログラムを始めるにあたり、本学では新たに3名の職員を採用しました。そのうち2名はコロナ禍で失業された方にお手伝いいただいた形です。その後、お二人は本プログラムをステップとして、無事次の就職先を決められました。今回のプログラム自体が実質的に、転職支援につながった好例だと考えています。

〝お節介な関わり〟を次の課題として、具体的な転職・就職サポートにつなげたい

——受講生の反応はいかがでしたか?

井上: 受講生は主体的にどんどん行動するというより、背中を押されたら一歩動けるという印象でした。そのため、背中を押す機会や押す人間が必要だと実感しました。大学でいうなら、〝就職課のお節介な職員〟のような存在がいて、「就職に結びつけよう」としっかり介入する働きかけが必要だということです。プログラム修了後も、受講生の就職希望や活動状況を伺い、興味がある方には他の実習先を紹介するなど、継続的な声がけをしている最中です。

——自分たちで「お節介な職員」を実践しているわけですね。

井上: はい。丁寧に話を聞いてみると実は「登録ヘルパーの活動を始めた」など具体的なアクションが確認できる受講生もいます。改めて、「求職支援を希望するか」という意思確認と、希望する方には今後も積極的に就業につながる支援をしていきたいと思っています。

——今回の取り組みを踏まえて、今後の展望についてもお聞かせください。

井上: 今後の事業継続にあたっては、まず愛知県の全県レベルに連携先を広げ、チラシなどの広報だけでなく、就職フェアでブースを置かせていただくなど、さらに密な連携に努めたいと考えています。一人でも多くの方が福祉に興味を持っていただけるような事業に育てていきたいです。

Voice

愛知県福祉
人材センター

—今回、日本福祉大学と連携された背景、経緯について教えてください。

日本福祉大学の教授が当センターの運営委員を務めていることもあり、平時から関わりがありました。今回のプログラムを実施するにあたっては、福祉分野での就職・転職支援ということもあり、お声がけいただいたという経緯があります。センターとして、これまでリカレント教育に関わったことはありませんが、福祉人材の就職支援はこれまでも取り組んでいる内容なので、お力になれるのではと思いました。

—具体的には、どのように連携されたのでしょうか?

福祉人材センターの職員が講義の合間に、センターの紹介や就職支援の給付金等の支援の紹介を行ったり、就職フェアや職場体験事業を案内したり、センターでの求職登録を促すなどの活動を行いました。実際に就職フェアや職場体験に参加した受講者もいたのでよかったです。

—今回の事業に取り組んでよかったことを教えてください。

受講者にセンターを知ってもらえたこと、ハローワーク等を含めた様々な機関が連携して就職・転職支援をするという姿勢を示せたことはよかったと思います。また受講者の支援にあたっては、ハローワークなどとも連携することで、それぞれの得手不得手を補い合って支援することができました。

—今後に向けての課題や改善点などありますか?

今回の事業では、個人情報が一番の壁だと感じました。同意がない受講者については情報がもらえないため、個々の受講者に沿った対応をすることが難しかったのです。就職・転職支援という観点では、信頼関係をどうつくるか・どうマッチングにつなげるかという点が今後の課題だと思います。


受講生

—受講したプログラムは、どのようなところに魅力を感じましたか?

とにかく講師陣がよかったです。


受講生

—プログラムに関する感想、ご意見をお聞かせください。

実務者研修や介護福祉士国家試験に役立つ情報が盛りだくさんでした。転職活動にも役に立つ内容でとにかくとの講座も楽しかったです。


受講生

—受講を考える方に、メッセージをお願いします。

今後、介護の世界は、より多くの人員を必要としています。でも、自分にできるだろうかと不安な人や一歩が踏み出せない方もいるかと思いますが、こんなに大勢の仲間がいるんだということを感じて、まずは応募してみてはいかがでしょうか。