在学生・修了生インタビュー

東京都立大学プレミアム・カレッジ専攻科

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お互いを高められる仲間とともに続ける研究生活

橘良宏さん

機械メーカーを66歳で退職。翌年、美術大学に入学し学芸員の資格を取得した。学ぶ楽しさを知った橘さんは、プレミアム・カレッジに入学。1年目の本科、2年目の専攻科を修了し、さらに新設の研究生コースに進む予定だ。

若い頃に見た浮世絵の感動を胸に学芸員への道へ

橘さんは機械メーカーに勤務し、農業用機械の海外への販売を長年にわたって担当してきた。海外出張も多く、その際に楽しみにしていたのが、各地の美術館や博物館を訪ねることだったという。その中で今でも記憶に残っているのが、40年近く前にアメリカの美術館で見た浮世絵だった。

「当時30代だった私は、浮世絵をきちんと鑑賞するのが初めてで、その美しさはもちろん、浮世絵という印刷手法の素晴らしさにも感銘を受けました」。以来、美術作品と、それを生み出した時代への興味が心に残ることになった橘さんは、66歳で会社を退職した翌年に、学芸員の資格を取るために美術大学に通い始める。その美術大学で橘さんは、「若い学生たちと話をするのが面白くてね」と、他人と一緒に学ぶ楽しさを改めて実感。学芸員の資格を取得して美術大学を卒業すると、引き続き首都大学東京(現・東京都立大学)のプレミアム・カレッジに、1期生として2019年4月に入学する。

プレミアム・カレッジの入学資格は50歳以上となっていて、現在の募集人員は50名程度。入学にあたっては小論文による選考もある。出願者が多く、橘さんは合格できるかどうか不安を感じたそうだが、無事に合格。プレミアム・カレッジは1年目の本科を修了後、2年目は専攻科で学ぶようになっている。専用のラウンジが用意されているほか、学生食堂や図書館なども、一般の学生と同様に使用することができる。

橘さんがプレミアム・カレッジを選んだ理由は、自宅から近いということもあるが、科目や授業のスタイルがバラエティに富んでいることが大きい。東京や江戸、生命、芸術、科学、環境など多様な分野の科目が用意されているほか、一般の学生に向けた科目の中から、前期、後期に各1科目を選んで受講することもできる。交換留学生と一緒に英語で学ぶ科目もある。また、ゼミが必修となっていて、一つのテーマを1年かけて10名弱のメンバーで研究し、1年の最後に行われる成果発表会に向けて、論文にまとめなければならない。そして、毎週水曜日はフィールドワークの日だ。橘さんも「都政課題」の科目で、環状七号線地下調節池、下水処理場やゴミ処理場など、東京の防災やインフラの最前線の施設に出かけて、その実態を学ぶことができた。

新設の研究生コースで新しい研究テーマに挑む

プレミアム・カレッジでは、2021年4月から新たに研究生コースが設けられ、最長4年間学ぶことが可能になった。研究生コースで、橘さんも新しいテーマに取り組むことになっている。選んだ研究テーマは「江戸の外交戦略」。伊能忠敬の測量と、「シ-ボルト事件」、「ペリーの来航」などの大きな出来事が相次いだ激動の時代に、江戸幕府が、どのような外交戦略で臨んだのかを研究する予定だそうだ。プレミアム・カレッジの1年目に受けたフィールドワークで、江戸時代の武家屋敷跡の「江戸の穴蔵」、つまり地下室の遺構調査を見学したことや、2年目に「浮世絵から見る江戸時代の人々」の授業で、戦後の高度成長経済の源流に、幕府が鎖国をしていても長崎の出島などで海外の事情や情報を熱心に収集した江戸時代の人々がいたことがあると学んだことが、「江戸の外交戦略」への興味につながったという。

「浮世絵が好きで、江戸時代にも興味がありましたが、さらに2年もかけて研究することになるとは、プレミアム・カレッジに入ったときには全く思いもしませんでした」。自分でも驚いていると話す橘さんを突き動かしたのは、60代から70代というゼミの仲間から受けた刺激であり、ほぼ年下の教授からのアドバイスだった。「職業もバックボーンも、それぞれ違う仲間ですが、熱心に学び、研究するという点では同じです」。仲間の存在が自分もしっかり学ばなければと、橘さんを奮い立たせたのだった。「一人で学ぶのは限界がありますが、仲間がいればお互いを高めていけます」と話す。

何かに縛られることもなくお互いを高められる自由なつながり

会社員時代の付き合いは仕事や会社の範囲内のものが中心であったが、定年でフリーの立場になってから得られた、お互いを高め合える仲間とのつき合いは、何かに縛られることもなく、自由で大きな魅力がある。「プレミアム・カレッジで学ぶメリットは、新しい知識を得られるということもありますが、それ以上に大きいのは、人や社会とのつながりを得られるということです。定年によって所属する場所がなくなり困っている人や、社交ベタを自認している人に特にお勧めです」と橘さん。そして、興味のあることや学びたいことが見つからないという人には、次のようにアドバイスする。

「仕事一筋の人生で、仕事以外に興味がない、無趣味だという人がよくいます。しかし、飽きずに仕事を長く続けることができたのは、そこに興味があったからともいえるわけで、それを追いかけてもいいのではないでしょうか」。コロナ禍で、プレミアム・カレッジもリモートの講義が増えたが、それでも橘さんは充実した時間を過ごしている。