在学生・修了生インタビュー

静岡県立大学短期大学部 HPS養成講座

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つらい治療を続ける子どもたちが、子どもらしく成長する手助けを

河村麻央さん(28)

大学附属病院のICUで看護師として働いていた川村さんは、つらい治療を続ける子どもたちを目の当たりにしてホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)の資格取得を決意。東京で地域医療の訪問看護師として働き始めると同時に土日は静岡に通学。見事、資格を取得した。

「子どもたちのために、もっとできることはないか」と自問していた

大学卒業後、河村麻央さんは、看護師として地元広島県の大学附属病院で働き始めた。元々、子どもの看護が好きで小児科を希望していたが、配属されたのはICUだった。ICUには、多くの大人の患者に混じって、子どもの患者もいる。河村さんは、子どもの看護に当たりながら、「つらい治療を受けていても、子どもたちは遊びを求めているんだ」ということを強く感じていたという。

勤務先は高度医療を提供する病院であり、県外からの患者も受け入れることがある。河村さんが担当した子どもの患者のケースでは、母親が子どもに付き添って病院に詰め、父親と上の子どもが遠く離れた自宅に残り、家族が離れ離れになっていた。

「集中治療を受けるお子さんもしんどかったと思いますが、お母さんも上のお子さんも、ストレスフルな状態でした。私は、そのお子さんが助かる見込みは少ないと分かっていた中で、患者さんの看護に加え、家族の皆さんに少しでも思い出になるような時間を過ごしてもらいたいと思い、特に上のお子さんには心を砕いて接しました」。

そうした経験を通して「看護師として、子どもたちのためにもっと何かしてあげたい」という思いを強くする一方、「何をすればよいのか、その術がよく分からない」というもどかしさも募っていったという。

「HPS」という資格という資格を知って、進むべき道が決まった

もっと上手に子どもたちに接する方法を学べないものかと探していたところ、大阪で「病気や障害を持つ子どもの遊び」をテーマにした研修があることを知り、河村さんは一人で参加した。

「その研修の講師の方は『ホスピタル・プレイ・スペシャリスト(以下、HPS)』の資格を持っている方でした。その研修で私も初めてHPSのことを知ったのですが、『あ、私がやりたかったことはコレだったんだ!』と思いました」。 HPSとは、遊び(ホスピタル・プレイ)を用いて、医療環境をチャイルドフレンドリーなものにし、病児や障害のある子どもたちが医療との関わり経験を肯定的に捉えられるようにするため、小児医療チームの一員として働く専門職のこと。河村さんは即座にHPSを目指すことを決意した。

HPSの資格が取得できるのは、国内で唯一、静岡県立大学短期大学部の「HPS養成講座」だけ。しかも、その養成講座を受講するには、書類・作文の選考、面接の2次の選抜を突破しなければならない。競争倍率は2倍以上。河村さんは看護師以外の視点からも子どものことを学ぶ必要があると考え、看護師として働く傍ら、保育士の資格を取った。さらに「HPSの資格を取って、自分はどういう人になりたいのか」という〝将来ビジョン〟を突き詰めて考え、試験に備えていたという。

HPSを目指そうと決めてから1年半。面接では「HPSになるための努力を惜しまない覚悟」をアピールし、初めて受けたHPS養成講座の試験に見事、合格する。HPSの受講が決まったことを契機に、「新しい分野に挑戦していこう」と、4年間勤めた大学病院を辞めて、東京で地域医療を担う訪問看護師として働き始めた。

こうして新たな土地で新たな職場で働きながら、週末はHPS養成講座の受講という、河村さんの挑戦が始まった。そのチャレンジを支えたのは、もちろん河村さん自身の高いモチベーションだったが、受講生仲間の存在も大きかったという。

「養成講座には、『HPSになりたい』という同じ志を持った人が、全国から集まってきています。その団結力というか、同じところを目指すことのつながりの強さを感じました。その中で私は看護師でしたが、学校の先生や保育士の方も受講していて、それぞれ考え方や倫理観が違っていた点はとても勉強になりましたし、刺激にもなりました。異なるバックボーンを持つ人と交流する機会を持てたことは、大変良い経験だったと感じています」。

HPSの資格を得て「自分自身、一歩前進できたような感じ」

河村さんが受講したHPS養成講座のクールは、コロナ禍の影響で受講期間が少し延び、2020年5月に修了。口頭試問に合格した河村さんは、修了と同時にHPSの資格認定証を手にした。1年2カ月の仕事と受講の両立を振り返って、次のように話す。

「とにかくHPSの資格が取りたいという気持ちが大きくて、辛いとは感じませんでしたね。仕事を続けながらなので経済的に心配する必要もなかったですし、まだ20代と若いですから、体力的にも問題ありませんでした。私の場合、土曜、日曜に習ったことを、すぐに月曜日の仕事に生かして試せますから、むしろ働きながら勉強したことが良かったと感じているほどです」。

現在、看護師とHPSという2つの専門職の資格を生かし、河村さんは、医療や支援を必要としている子どもや障害がある子どもたちと、日々向き合っている。訪問看護師としての仕事に大きな変化はないが、「HPSという資格を得て、まず自分自身が変わったと感じています」という。

「受講期間中は、これまで自分が積み上げてきたキャリアに疑問を感じたり、他人と比較してしまったり、社会人ならではの悩みを感じたりしていました。けれどもそれを乗り越えたことで、自分自身、一歩前進できたような気がします」。 あえてチャレンジングな転職をして選んだ、今の仕事の一番のやりがいは、「子どもたちの、子どもらしく成長する姿を見ること」だという。そうしたやりがいを感じられるHPSという専門職に出会えたこと、その資格を取得する機会に恵まれたことを、河村さんはとても幸せだと感じている。