在学生・修了生インタビュー

杏林大学 高齢社会における地域活性化コーディネーター養成プログラム

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養成プログラムの狙いを実践するかのような地域活動を、修了生たちが立ち上げた

大久保隆さん

65歳で会社務めをリタイアした後、杏林大学の養成プログラムを4回受講。その修了生たちとともに立ち上げたプロジェクトで地域活動を実践している。

退職後、これまでの経験を生かして地域に貢献したかった

建築関係の会社で設計の仕事をしていた大久保隆さんは、65歳で会社勤めをリタイア。現在は、福祉関係の財団で昔の仕事仲間と共に建築物の査定業務をしながら、地元三鷹市の空き家を活用した地域の居場所づくりの活動にも取り組むという〝ダブルワーク〟をこなし、充実した日々を過ごしている。

大久保さんは、戦後の高度成長を第一線で支えていた世代。現役時代は、もっぱら会社と自宅の往復だったという。そんな大久保さんが、地域の居場所づくり活動に取り組むようになったきっかけが、杏林大学の「高齢社会における地域活性化コーディネーター養成プログラム(以下、養成プログラム)」を受講したことだった。

開講初年度の2016年、養成プログラムのことを近所の人から聞いて、受講を申し込んだそうだ。

「受講しようと思ったのは、受講料もリーズナブルで、杏林大学の近くに住んでいて通いやすかったこともありますが、社会人のみの講義だけでなく、学部生と一緒に学べる講義もあるというのが魅力的でした。そしてもう一つ、退職して自由になったので、これまでの建築・設計の経験を生かして地域社会に貢献できればな、という思いもありました」。

やがて、大久保さんのキャリアが生かせる時が、実際に訪れた。1年間の養成プログラムの修了式の日、受講生の一人から、「親が住んでいた古い空き家があるのだが、地域の役に立てたいので、見てほしい」と、声を掛けられたのだ。何人かの受講生が連れ立って空き家を見に行き、大久保さんがその場で〝診断〟すると、「まだ使える」という結果だった。空き家の持ち主は改装費用を出すことを決断し、まさに「高齢社会における地域活性化」を学んだ修了生たちが、あれやこれやとその活用方法を議論するようになっていった。こうして、大久保さんたちの地域の居場所づくり活動が始まった。

修了生を中心に、空き家を活用した地域の居場所の運営に当たっている

大久保さんも含めた養成プログラムの修了生の有志らが協力し、2017年10月、空き家が「人と人が出会う居場所『おむすびハウス』」としてオープンした。空き家を活用した地域の人々の居場所としては、三鷹市内で4カ所目。オープニングイベントには三鷹市長も訪れるほど、これからの地域社会のコミュニティーを支える拠点として、期待を集めるものとなった。

そして、「おむすびハウス」の運営に当たる団体として「おむすび倶楽部友の会」が立ち上げられ、大久保さんが代表を務めることになった。「おむすび倶楽部友の会」は、養成プログラムで学んだ仲間を中心に10人のメンバーでスタートし、現在は17人に仲間を増やしているという。

その後、「おむすびハウス」は地域のさまざまな人々・団体に活用されるようになり、歌声カフェ、健康体操、脳トレ健康麻雀、絵本と親子ふれあい遊び、ママカフェ、フラワーデザインなどの会が開かれている。こうして、「おむすびハウス」は順調に運営され、地域の居場所として〝発展〟を続けているが、大久保さん自身も学びを深め、〝成長〟を続けている。2018、2019、2020年度の養成プログラムを受講し、〝高齢社会における地域活性化コーディネーター〟としての力量をさらに向上させようとしているのだ。

「養成プログラムで学んだことで、杏林大学の先生方ともお知り合いになれましたし、他地域の方々との交流も持てるようになりました。そのつながりをさらに広げ、大学の先生や他のさまざまな地域活動を実践していらっしゃる方々から、今の地域の課題であったり、今の福祉の状況であったり、新しい情報や知識を仕入れることが、『おむすびハウス』の運営にも役立つだろうと思っています。過去に一度だけ学んだことや自分の経験だけを頼りしているのでは、どんどん陳腐化していってしまいます。自分自身を陳腐化させないように、学び続けているということでしょうね」。

地域活動を担う人がプレイヤーで、大学の先生はコーチ役

養成プログラムを受講するのは、定年退職後の人、すでに地域で何らかの活動を行っている人が多い。大久保さんの場合、査定業務という仕事をしながらの受講だったので、スケジュールの調整には苦労した面もあったが「まったくストレスは感じなかった」という。受講仲間についても「皆さんとにかく元気で、刺激をもらえた」と、振り返る。

確かに、外面的には、似通った問題意識を持ち学ぶ意欲を持った人たちが集まる、居心地の良い環境といえるのだろう。では、そこに学ぶ人々の内面を考えたとき、大学に集って共に学び直すということには、どういう意味があるのだろうか。

「『おむすび倶楽部友の会』の代表を務めている関係で、さまざまなところで活動内容をお話しする機会があります。そうした会合の席で、ある大学の先生が『大学の先生はコーチ役なのだ』とおっしゃっていました。どういうことかといいますと、実際に地域活動を担っている私たちはプレイヤーで、プレイヤーが主役ではあるのだけれども、プレイヤー個々がやっていることにどういう意味があるのかとか、どういう狙いを持ってプレイヤーが動くのかとかは、やっぱりコーチに聞かないと分からないわけです。コーチに言われた通りにプレイヤーが動くとは限りませんが、コーチに教わることで、安心感も持ちますし、自分の立ち位置がよく分かります」。

大久保さんは、「学びとは、自分の足りないところを補充することだ」と言う。そして、これから学びを始めようとしている人たちに向けて、こんなアドバイスをしてくれた。

自分のこれまでの経験や知識、自分がやりたいと思ってきたいろいろな思いを、一度〝棚卸し〟してみると、何が足りていないのかが分かるはずです。その足りていない部分の発見が、学びのきっかけになるのではないでしょうか」。