特集:筑波大学(働く人への心理支援開発研究センター)の取り組み

筑波大学が培ったノウハウと最新のITを融合した講座に

写真:教育プログラムの様子

筑波大学が培ったノウハウと最新のITを融合した講座に

ITスキルを身につけたい人のためのライフキャリア醸成・就職支援プログラム
失業者及び転職を希望する受講者に対し、①IT能力を開発すること、②広くライフキャリアに関わる態度・知識を高めること、③これらを醸成中の受講生に対して直接的な就職・転職支援を行うことを目的として、学内外のリソースを活用し、連携・協働することによって就職・転職支援を開発、実施するリカレント教育プログラム。
  • 「寄り添いサポート」で受講者を最後までバックアップ
  • ニーズに柔軟に対応することで、受講者全員の修了を実現
  • 講座の設計は、ターゲットを明確にすることからスタート

「寄り添いサポート」で受講者を最後までバックアップ

——リカレントプログラムを開講した背景や、プログラムの特徴について教えてください。

岡田昌毅(筑波大学 教授、働く人への心理支援開発研究センター長):
 本学では、1989年から30年以上にわたって、茗荷谷にある東京キャンパスの社会人大学院で、カウンセリング学位プログラムを提供してきました。文部科学省の公募に応じたのは、これまでの社会人教育で培ってきたノウハウ、心理学をベースにしたカウンセリングやキャリアコンサルティングの知見などを活かすことができると判断したからです。

プログラムの内容は、IT教育企業と連携して、ITと心理学を組み合わせることを検討しました。具体的には「IT能力開発」「ライフキャリア醸成」「就職支援」の3つを柱に、「寄り添いサポート」を加えたものです。寄り添いサポートとは、6人のキャリアコンサルタントが各5名の受講者を担当しコンサルティングを行う、というものです。受講者は1人につき最大12回のキャリアコンサルティングを受けることができます。キャリアコンサルタントと講座のスタッフが連携して受講生の状況を常に詳細に把握し、バックアップする体制を整えました。

——「IT能力開発」では、何を身につけることを目指したのでしょうか?

岡田: 最先端のIT教育を約4カ月の受講期間内で習得することを目標に、連携したIT教育企業の株式会社IPイノベーションズが行っている新入社員教育のノウハウを提供しました。具体的な内容は、ITの基礎をはじめ、ネットワーク技術、WindowsやJavaの知識などで、実際にIT業務を行えるレベルとなるようなプログラムにしています。また、業務において必要なコミュニケーション能力を身につけてもらうことにも時間をかけました。

ニーズに柔軟に対応することで、受講者全員の修了を実現

——受講希望者が、定員の2倍以上になる71名に達したそうですね。

廣田奈穂美(筑波大学 働く人への心理支援開発センター 研究員):
 受講者は非正規雇用や失業している人を想定していたので、講義も火曜日から金曜日の9:30から16:30までとしました。定員30名に対して、71名の応募がありましたが、平日の昼間の講義を受講できる人を選考しました。30名の受講者は全員が修了していて、「寄り添いサポート」による支援に効果があったと考えています。

——全員が講座を修了できた要因は、「寄り添いサポート」の他にも何かあるのでしょうか?

廣田: コロナ禍の影響もあり、受講者には育児中の女性もいたことから、ITの授業などではオンライン受講の要望もあり、パソコンの貸与などの準備をしました。また、オンラインでできない授業については補講も用意しました。結果的には、オンラインより対面での受講を選ぶ人が多く、また、対面授業を評価する声も多く寄せられましたが、このように、受講者のニーズに柔軟な対応をしたことが、全員の修了につながったと考えています。今回のプログラムの講師には、かつて本学で社会人大学院修了生もいて、そうした人材のサポートもプラスに働いたと思います。

講座の設計は、ターゲットを明確にすることからスタート

——広報や周知活動の効果はいかがでしたか?

廣田: 講座の案内チラシを約2000枚作成し、東京労働局、都内21カ所のハローワーク、大学のキャリアセンター、キャリア支援団体などに配布しました。また、本学のホームページに情報を掲載したほか、web説明会も実施。さらに、TwitterやFacebookなどのSNSも利用して、選考会の案内などの情報を定期的に公開しました。

受講希望者にどのようにしてプログラムを知ったのか聞いたところ、インターネットが31%、ハローワークが18%、SNSが13%となりました。SNSを見た人からの紹介、大学関係者のネットワークを通じた紹介、チラシやwebで講座を知った人からの紹介もあり、口コミも一定の効果があることがわかりました。また、受講者の中には、他大学から紹介された方もいて、大学間の連携の可能性や必要性を感じました。

——今回の取り組みで見えてきた課題や改善のポイントを教えてください。

廣田: IT分野を扱う講座ということもあり、若年層の受講を想定していましたが、実際には4、50代の女性が多く受講しました。就業している男性が平日の昼間に授業を受けるのはやはり難しく、結果的に女性の受講が多くなったのかもしれません。同じ女性でもシングルマザーの受講がなかったのも、仕事をしながら育児をする人にとって、平日の昼間の授業や対面での授業を約4カ月間続けるのはハードルが高かったといえます。次回以降の講座の設計にあたっては、まず、誰に、どの層に焦点を当てるかを明確にすることから始めるべきだと感じました。広報・周知活動でも、たとえば若年層の参加を増やすのなら、若年層がよく利用するメディアを使うといったことを考える必要があります。

また、東京労働局やハローワークなどからは、リカレント講座のニーズや広報活動のあり方などについて、参考になる意見を聞くことができました。今後もしっかり連携していきたいと思います。

Voice

受講生

―受講したプログラムは、どのようなところに魅力を感じましたか?

最先端のITの知識を身につけられるだけでなく、レベルの高い心理学講義など幅広く学ぶことができました。ITと心理学の両方を学ぶことで、人としての豊かさをどう実現していくか考える機会が得られたと思います。


受講生

―受講したプログラムは、どのようなところに魅力を感じましたか?

キャリアコンサルタントに、自己分析、模擬面接、履歴書の添削など手厚く支援いただいたことは、本当に名前通り「寄り添いサポート」でした。


受講生

―プログラムに関する感想、ご意見をお聞かせください。

働くことについて、人間の内側(心理支援)からアプローチしていく素晴らしいプログラムでした。


受講生

―受講を考える方に、メッセージをお願いします。

スケジュールとの折り合いに不安がありましたが、周りの方が修了まで熱心にサポートしてくださるので大丈夫です。ぜひ受講をおすすめします。